2016年7月13日水曜日

スズメくん


カレンダーを見ると燃やせないゴミの日。

ゴミ袋を提げて、ゆっくりゴミ集積場にいくと、
徹夜をして夜明けなので、金網の中にはまだ袋がひとつだけ。
めったにないことに、四角いゴミ箱の中でチラチラ動くものがある。
ちゃんと見ると、まあめずらしい、小さいスズメが中にいた!
入ったはいいけれど出られなくなったのだろう。
団地のゴミ箱は、ちょうど大きな鳥カゴのような具合だ。
カラスやネコの爪を避けて、金網を目の細かいアミでまた補強してある。

スズメの羽音は小さいが、あっちにゆきこっちにゆき、たいへんで、
「ほらほら、どうしたのいったい?」
フタをそっとあけてやると、もちろんすぐ出て、
ワサワサシューッとはすかいに飛んで行ってしまった。
東の方に行ったけど。

そこには今でも、だれかが待っていてくれるのか。
真剣な、こわばった目をしていて、
こわかったんだろうと、それだけがくっきりと目に残った。


2016年7月12日火曜日

不良会社とは


友人の娘さんから、
わたしのガラケー携帯電話にメールを、こまごまと20幾つも(SMS)受信したのである。
・・・・こんなのってありか。
途中からですが、みなさん、読んでみてください。
Aちゃんからのメールです。


⑴ あ、私事ですが実は仕事を2ヶ月でクビになりました。今はまた仕事を探しています。

⑵ 結論から言うと雇用契約書が交わされず、社会保険の手続きをしたのにも関わらず
   入っていませんでした。

⑶ 雇用(労働)契約書の事を指摘した所、即時解雇となりました。

⑷ 経緯は、入る前の面接で、採用を頂いた際に、労働契約書を交わして貰えず、給与
   提示もされず、口頭で前の給料よりは出すと言われ、

⑸ そんな恐ろしい雇用契約は無いと思い、入社前に全てを提示してくれと何回かお願いし
   たら、少しもめてしまいましたが、給与のみ提示されました。

⑹ さらに詳細の書面をしつこくお願いした所、入社日に細かいことはやりますのでと
   言われたきり、

⑺ 結局交わしてもらえませんでした。

⑻ そして、2ヶ月目に急に解雇を言い渡されました。君は仕事は一生懸命やってるのは解るが

⑼ この会社に合わないから月曜から来なくていい・・・といった感じでした。

⑽ そこでビックリしたのが、君には社会保険かけてないから、経歴に傷はつきませんよ、次の
   所にはアルバイトとでも言うと良いでしょうと・・・。

⑾ ハローワークの求人には試用期間も正社員と同じ条件と 書かれており、会社で社会保険
   の手続きもして

⑿ 給料から天引きをされていたのに実は騙されていたようです。

⒀ 最終的には社会保険代金は返金されました。また、解雇後、解雇予告手当を請求し、
   支払われました。

⒁ 私としてはアホな会社に費やした時間を悔やむ間も無く、今は次の仕事を探しています。

⒂ 何とか踏ん張るしか無いですね。
   次は選択を間違えない様にしたいと思います。

⒃ 長々とすみません。

⒄ つぎこさん、お忙しいとは思いますが、またお会いしましょう、家にも来てください。


有能な、強靭な働き手で、引っ越したための転職だった。
何年も勤めた前の会社から引きとめてもらって、
やめたくはなかったが遠路通勤するうち身体をこわした、だから。
私へのメール24通もアッというまに届いて、こっちは二日もかかって返信したのである。

無力がつらい。
私にできることと言ったら、いつかローンに苦しむ小さな小さな家を必ず訪ねよう、
その約束はどうしても守ろう、ということだけなのだ。
私の娘と同い年? 
どんなにか不良会社員共に自尊心をズタズタにされたことだろう。

いつか私は息子といっしょに、彼女の家に行こう。
そして、彼女とダンナサン(Aちゃんはだいじそうによぶ)に音楽を楽しんでもらうのだ。
仕事を探す彼女の勇気と元気と必死の正義感を祝って。



2016年7月11日月曜日

沈思黙考ー家族


長男と久しぶりに食事をしたとき、誕生日のお祝いだと言って、
DVDと本を手渡してくれた。
ぼくが一番すきな映画。そして僕が(おそらく)一番気に入っている著者の本。
ふたつとも、そうなんだろうなーと思う。
映画は「マイ ライフ アズ  ア ドッグ」
本のほうは著者がプレイディみかこ、「ヨーロッパコーリング」という本。

年齢というものは、ものがなしい。
「ヨーロッパコーリング」は難しくてすらすらとは読めないし、
映画は自分が落ち着かない、主人公がぼくの人生は犬みたいと言うのだから。
息子がそんなことを思っていたらどうしよう。
とはいえエスニック料理はおいしく、彼と話せてとっても安心。私には嬉しい夜だった。

それから、選挙があった。
夜中にオランダの遥にメールをする。なにしろ時差があるからこちらは午前4時少し前。
自分から始めたくせに、私は早々に娘に「もう寝ないと」と送信してしまう。
あと1時間半でまた一日が始まるから。
素直に「うん、お休み」と返事がかえってくるのがなんだかさびしくて。

あなたのお誕生日にアンネ・フランクの同級生が書いた本を送るけど。
「アンネ、わたしたちは老人になるまで生き延びられた。」 という長いタイトルの本よ。
戦前と今を比べると日本人のメンタリティは違ってきてるんじゃないか。
インターネットはあるし、そこに希望があると思いたいとあなたは言った。
そうかなあ・・・私はどうもなんだか様子がちがうのかもと。
読んでみてね。ヘンな具合の、老人ならではのゆっくりした本よ。

その少し前、私はギターを抱えて新宿へバスと電車を乗り継いで行った。。
次男がディスクユニオンのスタジオでライブ。
今日がㇾコ発だというバンドと一緒の、すばらしく愉しい夜だった。

しかしいくらなんでもお客さんが極端に少ない。
それにどれほど音楽が明るくじゃんじゃか鳴り響いても、
次男の友人たちが、もう疲れ果てて終始一貫ニコリともしないのだ。
・・・こんなに疲れて、それでも仕事の帰りに来てくれたなんて、本当にありがとう。
次男と対バンの4人は、なぜかまるで人よせができなかったらしい。
始まる前から気をもんで 、演奏中は舞台から、もう私ばかりを見ていたという。
ははは。無理もない。いかにも楽しそうに、もう最大限にこにこしていたのは、
観客では私だけ なんだから。

あの人は誰なんだときくから、母親だと答えたら「母親!」と4人はビックリ。
ぼくが会社の帰りで間に合わないからギターを運んでくれたと説明すると、
「ひどいことさせる」と彼らはまたもビックリ。

そうよアンタってひどい奴なのよ。わかってんのか。
そう言ってやってよかった。私としてはスッキリ溜飲が下がったわけである。



2016年7月8日金曜日

魚やさん


「あっ、くぼ、さん」
控えめな小さな声がきこえて、売り場と魚の調理場を隔てるガラスの向こうに、
にこにこしてうれしそうに手をふるメグちゃんがいる。
メグちゃんは、「メールに書きましたよね、そうここで働いているんです」と、
私と職場の先輩の両方に説明しながら、急いでこっちに出てきた。

彼女の長男はもう幸福な中学生になった。
メグちゃんは、私が幼稚園の園長を辞めた時、このブログを立ち上げてくれた。
そのまえ、園長になりたてのころだけど、PTAの会長さんを引き受けてくれた、
だから私には忘れられない人である。
あの頃はブログを開くしかさしあたりどうしようもなかった。

今、私の眼のまえに黒いゴム靴で立っている彼女はすごくきれいだ。
魚をさばく仕事場になっちゃったんですと、ためらって笑う姿が輝くようなのである。
大きなエプロンをかけて、その下はガバガバの黒いズボン、赤色のシャツブラウス。
髪は白い布でおおわれて、全部なんとなく曲がって膨らんでいるのがいい!
育ちのいい彼女になんてよく似合う装束なんだろうか。

いい日だと思って幸せになる。
売り場の私のほうに、すぐこだわりなく出て来たのも、嬉しいことの一つだった。
努力ができて、自由にふるまえて、包丁技能に苦戦し
それが役にたたない仕事なんかじゃない。料理もすごくじょうずになる!
なんて賢い人なんだろうと、その選択ぶりが私にはうらやましい。

ついつられて、新鮮、獲れたてのサバを買ってしまう。
生活クラブ生協デポ。以前は彼女とはお客さん同士、売り場で会ったものだ。
私の周囲の若い30代は、職場で上司のパワハラにあって今や息も絶えだえである。
でもここでは命名からして、職場の正義と原則が守られているのだろう。
・・・雇うほうと雇われるほうが調和している。努力とともにシッカリ平和なのに相違ない。



2016年7月1日金曜日

水木さんの本を買ったら


人生をいじくりまわしてはいけない、というヘンな本を買った。
水木しげるファンでもないのに。
人生をいじくりまわすのに、もうくたびれちゃったので、
ワラをもつかむ心地である。
いまのまんまでいいの? そうするとどうなるの、とききたい私だ。

さっそく電車の中で読む。優先席・・・。
電車はガラガラ。前の座席に、品のいい古典的なおじいがいる。
すごく暗い顔が、ひきつっては、ぎゅーっと下を向く。
何度もそうする。
痛そうに左の脚を縮めて、ギュッと細い太ももをわしづかみして、時々うめく。
代わりに、痛いところをきちんと掴んであげられたらなーと思う。
でも断られるにきまっている。

あきらめて、というか失礼にあたるし、また「人生をいじくりまわしてはいけない」を読む。
つつじヶ丘でこの電車は橋本行きの急行待ちをする。

病気で背丈が縮んだのかもしれない、向かい座席片隅のおじいも降りるのだろうか。
黒色のソフトをきちんと被り、チャコールグレイのズボンの先の皮靴は黒、コートも黒。
横に置いたリュックのベルトをつかもうとしては、つかみ損ねている。
中腰であんまり儚く(はかなく)ふらふらするから、
遠いんだけど、ついこっちから手をさしだしてしまった。
「なんですか?」
いやな顔をしてそう聞かれた。

「おてつだいしましょうか?」
怒らせたくなくて小声で言ったら、びっくりしたことにいい顔になって笑った。
「けっこうです」という声も、私をこわがらせないようにゆっくりだし低い。
誇り高いがゆえに一見強面(こわもて)のこのおじいさんは、おそらく親切な人なのだ。
・・・リュックを苦心のすえに背負い、両手の杖で身体を支え、
「日本の品格」は、つつじヶ丘のプラットホームのどこかに消えた。
ズボンの上、膝裏のあたりに、白くて四角いパップクールが貼ってあった。

プラットホームに降りて急行を待つあいだも、私は読書続行。
ところで、というべきか、すると、というべきか。

向いのホームの階段の前に、準備体操をしている初老男性がいるのである。
高価そうな運動靴に紺色のスポーツ着、メタボに励む。
読んでいる本のせいか、今日はヘンな老人ばかり見つけてしまう。
故・水木さんの推薦なのかどうか、浮世離れした人があそこで体操をしている。
なんでも、こっちの端からあっちの端へウサギ跳びして最後にボールを蹴るのだ。
それを新宿行き快速を待つあいだくりかえすって、ヘンじゃない?
プラットホームでそんなこと、オカシイんじゃないの?
階段の端までウサギ跳び、着くとボールを天井にむけて蹴るなんて?!
まてよ、これは絶対水木さんの影響による自分の誤解だ。
私はとてもそそっかしい。だから。バッグの中のメガネをさがした。
ほーら、なーんだぁ、駅の階段の飾りがステンレスの小玉だったのよ。
まさかあの人が直接ボールを天井向けて蹴っているはずがない。
私って世の中を誤解しながら見ているのだ、相当な近視のせいで。

でもプラットホームで寸暇を惜しんでウサギ跳びなんて。
官僚主義的中間管理職だった人?

こうなるともう一回、奇妙な年寄を探さないではいられない。
二度あることは三度あるはずと思って。

そういえば、 私がいる側の橋本行のプラットホームにだって、
ウクライナ発みたいな牧歌的な老人夫妻がいる。
自然態で仲がよさそうなのが、今どきめずらしい。二人ともいきいきと元気。
立ち止まると、双方が微妙に傾いて二頭辺三角形的台形になる。
おなじような古ぼけたブーツ。年金生活者らしい身なり。
夫は古くて黒ずんだ赤いリュックサック。妻は布製の手提げ。
私は離婚して自由だけど、こんな夫婦なら結婚しててもいいのかなー。
どうかなあ。

ちなみに水木先生(ご自分をそう言う)は、奥様と幸福に添い遂げられた方である。