大規模修繕だからといって、楽しいことだってある。
うちはコンクリートの6軒長屋なので、まとめて、鉄骨が組まれ、
それから、鉄骨全体が上から黒い網を、まるごとかぶる。
かぶれない場所は、どうするのか知らないが、鉄骨が空の下に不景気に組まれて、
3階の物干し場に出ても、ふべん不細工、見る気がしない。
ところが、びっくりしたことに、
きょうはそこに小鳥さんがいて、腑に落ちない風情、
考え、考え、
どうしたんだ、なんだこれ、新しいばしょ? なんなの、わからないよ、
と歌っている。のんびりして。
思いがけないことって、なんていいんいだろう。
お天気だし!
いつかのむかし、福原一間(本当は門がまえの中に日じゃなくて月を入れる)が
きてくれて、山の竹を削ってつくった横笛を吹くと、小鳥がいっぱい飛んできて
柿の木の枝にとまって、楽しそうだった。
・・・そんな昔も、とっても昔になってしまって、
一間さんは、いまどこにいるのかしら。
東南アジアのどこか、かしら。
あの人はどこでも、日本人をやってくらせそうな人だった。
もうひとつ。大規模修繕になって、よいことがあった。
はじめ、雨が何日も降って、とても寒い日が続いた。
あれをやって、これをやって、外で全員びしょぬれの作業が、毎日続いている。
寒いのに、
ひときわ目立つずいぶんな年寄りの作業員も、ずーっと雨の中にいる。
背が高くて、痩せていて、白髪にヘルメット、
三つに折りたためそうな、ごわごわした体格・・・、
この人が、やさしくて面倒見のよいおじいさんだった。
いつでも、なにか役に立とうとしてくれて。
数日前に作業がすんだらしく、フーッと消えちゃったけれど、
見知らぬひとの親切や優しさは、とても嬉しいものだ。
鉄骨の中に挟まれて動けなくなったうちの自転車を、ゆっくり、だしてくれた、
若い人に話して。ぐちゃぐちゃのオンボロなのに。