小雨が降って朝から寒い。
電車の中で、風邪を引きそうだと不安になって、
手提げをかきまわしたら救急袋にホッカイロがひとつ。
いったいどれぐらい昔のホッカイロだろう。
レトロなホッカイロでも、あってよかった。
Tシャツに貼り付けるとすこし温かくなってホッとした。
歯医者さんに着いた。ひざ掛けを二枚にしてもらったので、
昨夜遅く寝たせいなんだけど、こんどはぐらっと眠りそうになった。
でも、向こうで赤ちゃんの泣き声がぎゃんぎゃん、わぁわぁ。
ぎゃあぎゃあ、ぎゃーぎゃー。きいてるうちにおかしくなっちゃって、
「あんな泣き声の赤ちゃんにも治療する歯があるのかしらね?」
看護婦さんに聞いたつもりだったのに、
「このごろの子はみんなああいう泣き方ですよ」
ふんがいした声で応えたのは私の歯医者の先生だった!?
向こうの診察室で赤ちゃんの口をこじ開けてるのかと思っていたけど、
先生はずっと、私の頭の向こうでなにかの作業中だったのだ。
いつまでも続く抗議の泣き声は、道路をへだてた豪華マンションの方から。
やっぱり赤ちゃんには歯がないから患者たりえないのね。
すごい泣き声・・・「最近の小さい子どもの泣き声はすごいんですよ、
どの子もそうだ、 みんなああいう声で泣くけど、おかしいよ」
先生は憤慨している。ふたりの大きくなった男の子のお父さんである。
「泣いてるそばで、悪くするとお母さんはスマホなんかやって知らん顔だもん。
お兄ちゃんが自転車乗り回して、それだって勝手にやらせてる。
最初から人間関係ができてないんですよ」
雨がやんだアトの、寒々しい風のなかに親子でせっかく出てきて。
治療が終わるころ友人からメール。
電車が人身事故のため、途中駅で立往生という。神奈川である。
「病気」は病(やまい)と気持ちという字からできている。
きちんとした言葉だと思う。
ウィルスを意識させるだけという日本政府の政策は本当に寒々しい。
自分がみんなにとって温かくて嬉しい存在だとよくわかることが、
私たちの命をまもる基本なのだ。
それなのに子どもたちは人生の初めからスマホに直面してしまう 。
ひとの温かさこそがひとの味方の最たるものだと思う。
うまずたゆまず、そこに努力を集めて、考えながら生きていたい。