オランダ最古の街で、ヨーロッパの十字路として栄えた。
ドイツとベルギーに隣接。それで建築資材としての石を調達しやすく、
旧市街の道路や広場がオランダにはめずらしく重厚な石畳である。
旧市街の道路や広場がオランダにはめずらしく重厚な石畳である。
マルクト広場は、ショートケーキみたいだった。
私の家にもあるけど、記念品として有名な陶器の建物のホンモノが建ち並んで、
「すごいな、これ!?」
ホンモノとなると遊園地みたい、どこに眼をつけたらいいのかわからない。
しかもこのショートケーキには毒がある。
聖セルファース教会(560年)なんかおそろしい。
12世紀の建物だという礼拝堂に陳列された金箔の聖遺物箱や、聖人の胸像の数々、
壮麗な教会礼拝堂の薄暗がりにうかぶ宙吊りのまことに美しいキリスト像。
陰惨美。グリム童話みたいな暗さ。
教会の絵もいやだ。青白いキリストの死体を金ぴかに装った司祭が抱いて支えている。
脂肪をしっとり沈めた白い肌、みょうに薄い一文字の口、氷のように冷たく無関心な眼の色。
こんなふうに画家に自分の容貌を描写されても、
この人、なんとも思わなかったのかなー、ほんとに。
マーストリヒト駅で、バスをさがしているとき、
へんな老人を見た。
もんのすごくふとっている。
黄土色の厚ぼったい外套が風にはためき、白いハゲ頭、大きいズボンに古靴。
両手にふくらんだカバンと紙袋。
横拡がりに盛り上がったボンレスハムみたいな色のお腹が、
ズボンから三分の一ハミ出して寒風にさらされている。
オランダにホームレスはいないという。
ただの一人暮らし?彼はバスに乗らなかった。
歩いてせっせとどこかに行ってしまった。
私たちはバスをまちがえて、どこだか住宅街の停留所で途中下車。
寒い停留所で、いつまでもバスを待つ。
自転車で飛ばしていく人の顔はけわしいものだ。
一軒の家から男が出てきて、ポーチで煙草を吸いはじめる。
寒いのに、家の中は禁煙なのね。
猫が広い通りをじょうずに横切って歩いていく。
散歩中の黒犬が飛びかかろうとするけど、猫はおざなりに身構えているだけ、
飼い主がロープで犬を押さえるって、よくわかっているのだ。
やっとバスが来て、マーストリヒト駅へもどる。
なんと、あのお腹をだした老人が今度は駅にむかって歩いている!?
人ごみの中にいるのがバスの窓から見える。
「見てよ、あのへんな外套、さっきのあの人、ほらほら!」
スノーマンを描いた絵本画家の絵のようだ。
今までどこでなにをしていたのかしら?
この辺のことがわかっていそうな足運びではある。
バスは駅を通りすぎ、目的のマルクト広場へ。
マーストリヒトの起点である。
お昼だし疲れたし、広場前のカフェに入ってやれやれと食べたり飲んだりしてたら、
「どういうこと、さっきのおじいさん、そこにいる!」
カフェのガラス窓のむこう、雨樋に寄りかかるようにして、
ペットボトルの水を、のんびりラッパ飲みしているところである。
大きな身体、ふとった猫みたいにおちついた顔。
「神さまかもしれない」と遥が言いだした。
そうよねえ。よくあるよねえ。
身をやつしてさあ。
私たちの品性がどの程度のものかと、もしかして調べているんだとしたら?
水を飲みおわると、彼はやおら身を起こし、
スタスタ、スタスタ、早足でマルクト広場を横切り、
揚げパンを売る自動車のむこう、見えない遠くへと、姿を消した。
私たちは、ずーっと彼の風にはためく厚ぼったい外套を見ていた。
もう、次に会うことはなかった。
もしかしたら神さまかもしれなかったんだけど・・・。
教会の絵もいやだ。青白いキリストの死体を金ぴかに装った司祭が抱いて支えている。
脂肪をしっとり沈めた白い肌、みょうに薄い一文字の口、氷のように冷たく無関心な眼の色。
こんなふうに画家に自分の容貌を描写されても、
この人、なんとも思わなかったのかなー、ほんとに。
マーストリヒト駅で、バスをさがしているとき、
へんな老人を見た。
もんのすごくふとっている。
黄土色の厚ぼったい外套が風にはためき、白いハゲ頭、大きいズボンに古靴。
両手にふくらんだカバンと紙袋。
横拡がりに盛り上がったボンレスハムみたいな色のお腹が、
ズボンから三分の一ハミ出して寒風にさらされている。
オランダにホームレスはいないという。
ただの一人暮らし?彼はバスに乗らなかった。
歩いてせっせとどこかに行ってしまった。
私たちはバスをまちがえて、どこだか住宅街の停留所で途中下車。
寒い停留所で、いつまでもバスを待つ。
自転車で飛ばしていく人の顔はけわしいものだ。
一軒の家から男が出てきて、ポーチで煙草を吸いはじめる。
寒いのに、家の中は禁煙なのね。
猫が広い通りをじょうずに横切って歩いていく。
散歩中の黒犬が飛びかかろうとするけど、猫はおざなりに身構えているだけ、
飼い主がロープで犬を押さえるって、よくわかっているのだ。
やっとバスが来て、マーストリヒト駅へもどる。
なんと、あのお腹をだした老人が今度は駅にむかって歩いている!?
人ごみの中にいるのがバスの窓から見える。
「見てよ、あのへんな外套、さっきのあの人、ほらほら!」
スノーマンを描いた絵本画家の絵のようだ。
今までどこでなにをしていたのかしら?
この辺のことがわかっていそうな足運びではある。
バスは駅を通りすぎ、目的のマルクト広場へ。
マーストリヒトの起点である。
お昼だし疲れたし、広場前のカフェに入ってやれやれと食べたり飲んだりしてたら、
「どういうこと、さっきのおじいさん、そこにいる!」
カフェのガラス窓のむこう、雨樋に寄りかかるようにして、
ペットボトルの水を、のんびりラッパ飲みしているところである。
大きな身体、ふとった猫みたいにおちついた顔。
「神さまかもしれない」と遥が言いだした。
そうよねえ。よくあるよねえ。
身をやつしてさあ。
私たちの品性がどの程度のものかと、もしかして調べているんだとしたら?
水を飲みおわると、彼はやおら身を起こし、
スタスタ、スタスタ、早足でマルクト広場を横切り、
揚げパンを売る自動車のむこう、見えない遠くへと、姿を消した。
私たちは、ずーっと彼の風にはためく厚ぼったい外套を見ていた。
もう、次に会うことはなかった。
もしかしたら神さまかもしれなかったんだけど・・・。