ライブハウスで私はピットちゃんのすぐ横にこしかけていた。
ふわりとした白い毛糸のチュニックがよく似合う人で、
さっきから眉をしかめて、目立たないように何度も手提げをかきまわしている。
おなじ病状?だと思って、ついきいてしまう。
「なにか落としたんですか?」
ええ、いいえ、と彼女。
「つまらない物なんです、わたし、あのうちょっと、お守りみたいなつもりでいたから」
同病あい哀れむ。私たちは遺失物を教えあった。
止めのついたリボンが彼女、ちいさなフランスの神様が私。
「なくしたものの代わりにはならないと思うけれど」
彼女に金色のクリップを渡す。気に入っていたし買ったばかりだし、いいかと思って。
すると自分の残念とはくらべものにならないからと、異国のお守りが手渡された。
銀の色したエキゾティックなペンダント・トップ。
「そんなのいりません。だってあなたがこまるでしょう、お守りがなくなって」
ピットちゃんは元気な笑顔で、
「いいんです。もう私は自分の幸運をこのお守りでは使ってしまいましたから」
それから、ライブの喧噪のなかで彼女はみょうに真剣な顔になった。
失くしたのはどんな神様なんですかときくのである。
「親指のツメぐらいの白い陶器、青い上着でバイオリンを弾いてるの。」
もういい絶対みつからないと思うから、と私は言った。
指で、こんなに小さいのよとサイズをつくれば、1センチ半ぐらいしかない。
地下のライブハウスは100人以上の人でごった返し、煙草のけむりで霞んでいる。
あっちも会場こっちも会場、どこをどう歩いたのかハッキリしない。
こころあたりのある場所はもうとっくに捜したあとだ。
どんなに胸がごろごろしても、私はあの小人とお別れなのだ。
・・・ところがである?!
1時間ぐらいあとで、ピットちゃんが私にフランスの神様を差し出したではないか!!
出入口の壁の下にありましたと、まじめな顔がとてもうれしそうだ。
お守りを返してあげたいのに、いいんですいいんです、と受け取らない。
左手に小さなペンダント・トップ、右手に親指小僧、
私のお守りはこの日ふたつにふえたのだった。
ふわりとした白い毛糸のチュニックがよく似合う人で、
さっきから眉をしかめて、目立たないように何度も手提げをかきまわしている。
おなじ病状?だと思って、ついきいてしまう。
「なにか落としたんですか?」
ええ、いいえ、と彼女。
「つまらない物なんです、わたし、あのうちょっと、お守りみたいなつもりでいたから」
同病あい哀れむ。私たちは遺失物を教えあった。
止めのついたリボンが彼女、ちいさなフランスの神様が私。
「なくしたものの代わりにはならないと思うけれど」
彼女に金色のクリップを渡す。気に入っていたし買ったばかりだし、いいかと思って。
すると自分の残念とはくらべものにならないからと、異国のお守りが手渡された。
銀の色したエキゾティックなペンダント・トップ。
「そんなのいりません。だってあなたがこまるでしょう、お守りがなくなって」
ピットちゃんは元気な笑顔で、
「いいんです。もう私は自分の幸運をこのお守りでは使ってしまいましたから」
それから、ライブの喧噪のなかで彼女はみょうに真剣な顔になった。
失くしたのはどんな神様なんですかときくのである。
「親指のツメぐらいの白い陶器、青い上着でバイオリンを弾いてるの。」
もういい絶対みつからないと思うから、と私は言った。
指で、こんなに小さいのよとサイズをつくれば、1センチ半ぐらいしかない。
地下のライブハウスは100人以上の人でごった返し、煙草のけむりで霞んでいる。
あっちも会場こっちも会場、どこをどう歩いたのかハッキリしない。
こころあたりのある場所はもうとっくに捜したあとだ。
どんなに胸がごろごろしても、私はあの小人とお別れなのだ。
・・・ところがである?!
1時間ぐらいあとで、ピットちゃんが私にフランスの神様を差し出したではないか!!
出入口の壁の下にありましたと、まじめな顔がとてもうれしそうだ。
お守りを返してあげたいのに、いいんですいいんです、と受け取らない。
左手に小さなペンダント・トップ、右手に親指小僧、
私のお守りはこの日ふたつにふえたのだった。