黒いセーター
ふるいカシミヤでやわらかく、あたたかく、ふかふかである
何年たっても、着心地がよい
捨てられなくて、新しいのは買えなくて
毎年、セーターの破れ目を、数える
そういう時が、好きかな、ちょっと
ビンボウの醍醐味、のような時がながれて
首にひとつ。左腕にどかんとひとつ
右腕は、そでぐちに一つ、二の腕にふたつ
脇のあたりは、両袖が壊れかけてオンボロ
そのわりにお腹も無傷
背中もぶじだ
指折りかぞえれば、7つの穴ができてしまった
戦場のような、上等品
このセーターが、いちばんだ
下に黒いTシャツを重ね着して、それから着れば
だれにもわからない
と思うのはいくらなんでも楽天的で無理かしら
世の中の人が私みたいに、
みんな老眼というわけじゃなし