2019年8月11日日曜日

5才


天井まで本があって、遊びあきると本棚の前に立って、
ぴょんぴょん片足で立って、わかる字をさがして読んだ。
ひらがなの本の背表紙はふたつしかなかった。
「かひしなの」それから「なすのよばなし」
かひしなのは論外だったが、なすはわかる。葉山の畑で見た。
祖母が小さい私に、眠るまでお話をしてくれたから、
ひるがあるし、もっと起きていたくても、夜も毎日くる、
夜がくると、ナスの畑にもなすの夜があるらしい。
こどもにだけ夜が毎日くる気がしてたけど。

あのナスたちが、夜になると自分で話し始めるなんて、知らなかったと思った。
枝からさがって、風にゆれながら話すのかしら、大きなはっぱの下で。
だまってする会話。
なんにも言わないナスもたくさんいる。
でもなにかいうナスもたくさんいる。
きこえない声の、ナスのおはなしが畑をわたってゆく。
みおろす淡い月の光が見えるような、印刷のうすい背表紙だった。
夏の夜で、
涼しい風が畑にふき渡り、
森のたぬきや川の近くのキツネが、家族でおはなしをするように、
ナスたちもおともだちどうしで、ひるま見たことを話しているんだ・・・。

私の思いこみは、そのまんまこどもの記憶のなかに埋もれて、
ときどき、ふーっと浮かんでは消えてしまう。
・・・ナスたちは、時々、私のあわい月の光の下にいる。
風に吹かれて、涼しい夜をみんなで楽しんで。

あのころは、夏でも夜になると、涼しい風が吹いた。
電気がそんなになかったから、夜になると地球が冷えたらしい。
あついあついと、ちいさな孫が夜でも汗をかいて、おこると、
祖母がうちわで、ずーっとあおいでいてくれた。
うちわにも、すこし涼しいのと、ぜんぜん涼しくないのとがあって、
そんなことでぐずった・・・。