2021年5月6日木曜日

あの女は

一日、少女の頃作り始めた、書物からの抜き書きノートのことを考える。
出先のことで、そのとき思いだしたかった文章の断片は、
マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」からの抜粋だったが、
家にかえって、オンボロのノートをさがすと、それはやすやすと見つかった。

もうひとつこういう詩を見つけた。私って悪態をつきたかったのかしら?
・・・作者の名まえがないけど、もしかしたらミュッセかも。

あの女はくたくたになるほど
わしらの悪口を言った
あの女はわしらが汗をかくほど
わしらの悪口を言った
あの女は口には言えないほど
わしらの悪口を言った
あの女はわしらが笑い出すほど
わしらの悪口を言った
あの女はまる一日と半
わしらの悪口を言った
あの女は頭がからっぽになるまで
わしらの悪口を言った
だがとうとう帆をあげて行ってしまった

これをノートに書きうつした1960年ごろは、
こういう戯れ歌がいかにもピッタリという人に逢ったことは無かった。
でもなんだか最近になって、こういう人がいるんだとわかってきた。
それも大勢・・・満員電車に乗って。
こういう人って今では会社に勤めているんだ、男でも、女でも・・・。

*
私が思い出したかった文章とは、以下のような断片だった。
マルタン・デュ・ガールである。

写真といっては一枚もない。昔の思い出は何もないのだ。
自由で一人ぼっちで思い出なんかよせつけていない!
     そして突然地平に向かってひらかれた一つの路、大きな抜け穴。
     即ちできもしないような生活から足を抜き、これを投げ捨て、
     行き当たりばったりに踏み出し生きて行くこと!

なにからなにまでやり直す! やり直すためには何から何まで忘れてしまう!
----そして人にも忘れさせる!

     なんら技巧を用いず、生地のままでやっていくこと。
     そして自分が創造するために生まれたという自覚を持つや否や
     自分はこの世で最も重い、最も美しい使命を負わされ、
     完成すべき大きな任務を負わされているのだと考えること。
 
そうだ! 誠実であること!あらゆることに、あらゆる時に、いつも誠実であること。
しかし、そういう僕にしたところで 彼らを愛していたのだった!