2013年10月28日月曜日

教育学の同窓会


同窓会をほそぼそ続けていた。早稲田の文学部はむかしクラス制でいま思えば家族的、
それだからか卒業後も似たもの同士で集まっては飲んだり食べたりしていた。
もちろん一年に一回がせいぜい、集まらない年だってあった。
大学生というと十八才がはじまりだが、人はもう人品骨柄がそれまでに決まってしまうんだなと、
みんなと別れて電車で帰るとき、よく考えたものである。
私とちがって年々地位が上昇するらしい彼らが昔のまんまなので。

ところが今年はちがう。
劇的、といってよいほど、みんなが変化した。
七十才は古希というが、生命のターニング・ポイントなのかもしれない。

森本さんが車に撥ねられて首の骨が折れ、頸椎損傷、
一年前から実は大変なことだったのだ。
彼は六五才になってから突然現れて、会社もあるけどと私たちの世話係を引き受け、
きっちりとクラスの名簿をつくり、ぐずぐずせず全員に連絡をし、
去年集まった時などはカンカン、クラスメイトの数々の非礼無礼に憤慨していた。
返事もよこさない、威張る、おまえらとはもう付き合わないとか言う・・・なんだあれは!!
なんとなく自分が怒られているよう、新宿の飲み屋に集まった連中は、
はははと笑い、申し訳なさそうな顔もしたりして、
悪いとか、まあまあ、まあとか、
釈然としない森本氏とそこは楽しく一杯飲んだのだった。
その頑健で山歩きが趣味の、文学部にしては自他ともにマッチョなふうな彼が貰い事故。

病院から一時帰宅した森本さんを世話役的四人で訪ねる。

私たちは七十才になったんだなあと思う・・・。
それはどんなことか、目がよく見えなかったり、癌の術後であったり、
森本さんほど悲劇的ではないにせよ、みんなの肉体の崩壊というか損傷が甚だしい。
いつも参加していたのに今回は来なかった森田さんだって脊椎の病気だとか。
このクラスの友達がホントにケッコウ好きだったんだなー、けっきょく私ってね。
だれかが同じような感慨にとらわれたのだろう、低い声でつぶやいた。
「働いたんだな、よく」

森本さんの家には美人の奥さんと、息子さんと娘さんがいた。
きのうは日曜日だったからよかった。
家族みんなが半身不随になった彼にやさしい。
彼は鉄人みたいにマッチョ風にみせていたのだけれど、
頼もしい夫であり父親であって、ちゃんとした家庭人だったにちがいない。
それはむかしからのクラスメイトには考えも及ばない彼の一面で、
森本家の家族あげての闘病の様子や
複雑さを増したさびしく純粋な彼の美しい表情や、
不幸が運んできた複雑きわまりない「幸福」のかたち・・・そういうことに、
私たちみんなは見とれるばかりであったのだ。

しっかりと、ほのぼのと「命」を持ちこたえるとは、なんて大したことだろう。
がんばれ、森本さん。