2014年3月13日木曜日

「二十四の瞳」


図書館に行って、子どもの本のコーナーで「二十四の瞳」を見つけた。
うす明かりの静けさのなか、著者の壺井栄さんにふさわしく、
その本は目立たず、明るく、少し重たく、ひっそりと書架にあった。
借りてきて少しづつ読むと、
いつ読んでも、どこを読んでも、涙がでてしまう。
なんてよく書けた小説であろう。
瀬戸内海の、岬の村の風景が、そこでくらす人々と子どもあっての美しさで、
なんとあたたかく悲哀感を以て活写されていることだろう。

電車の中で涙を拭きふき、表紙も古びたこの本を読んでいると、
むかいの座席のおじいさんがこっくりこっくりの合い間に、
気になるらしく私をじーっとながめるので、
ああ、私もおばあさんになっているのだから、
見知らぬおじいさんが涙を拭きふき小説をよんでいるおばあさんを見ているわけかと、
それがなつかしい童話のように思われて、
わたしたちが乗りあわせた世知辛い京王電鉄の昼まの電車が、
小豆島のどこかを走るむかしむかしのもののように、
鄙びた、やすらかな乗り物のように、
思えたりしたことである。