2014年11月12日水曜日

ハロウィーンの夜だった


長い一日だった。新宿はまがまがしい人でいっぱい。
帰宅者で電車は満員である。
ああくるしい。でもその急行に乗らないと。夜が10時になりかけて、家は東京のチベット。
それでむりに乗ったら、急行だから案外 どんどんと快速球もとい急なのだ。
座れはしないけれど、電車には乗ったし、すこし空間もあって、つり革にもつかまれる。
まあ、これで新百合ヶ丘までなんとかと思っていると、次の駅でむこうのむこうの席が空いた。
白髪の紳士が私を手招きして「どうぞお坐りなさい」とかけさせてくれる。
あんなに疲れた表情の人なのに。

私の横の人がしきりにもぞもぞして、腰かけたばかりの私に
「これ、次はどこに停まるんでしょうか?」
駅の名まえがやっとハッキリしても、どうも落ち着かないでいる。
なんだろうと思ったら、「すごいですね」と私を眺めているのだ。
席をゆずってもらってすごいのかと思いかけたら、メガネなしで細かい活字を
読んでいるのがスゴイという。たしかにスゴイ。見かけどおりの71才なんだから。
それでその人は私にこう言った。
「あのう、アメを食べません?」 !?  !? 
好きなのをお取りになってくださいと言われた。小さい缶にイロイロなアメが入れてある。
その人は自分は取らずに、またアメをしまった、ハンドバッグに。
礼節上私はアメをたべる。その人はたべない。
こんなことってあるもんかなー。

階段をあがる。階段をおりる。電車がいない。
小田急多摩線はいい。座れるし、終点から終点までの時間がみじかい。
やっと電車が到着、やれやれとドアから入って適当にドンと腰かける。
もちろん、私と同時に他の出入り口からもさまざまな人が乗り込んだのである。
みれば、私の腰かけた先に眠り込んでいる初老の紳士がいる。
終点に着いたというのに目をさまさない。酔っ払いだ。
どうしたもんかわからないけど・・・。私はウロウロとこまってあちこち・・・。
すると、前の座席の男の人が私と同じ目つきで、こっちを見てこまった笑顔だ。
向こうの方の座席の人もおんなじ、すこし笑顔の、思案顔である。
それで、あの人たちと自分が同じ判断ならばと、元気がでたし決心もついた。
私は眠り込んでいるヒトを横からつついた。
二度目につっつくと薄目を非難がましくあけたから、できるだけおもしろそうな低い声で、
「新百合ヶ丘につきましたよ。大丈夫ですか?」
彼は、不満顔で、考えながら立ち上がり、グラグラと歩き、危うくプラットホームへと降りる。
私を眺めている。恨んでいるのねと思ったら、閉まり始めたドア越しに頭を下げた、
グラグラとゆれっぱなしで。
みんなで心配したことだとは 知らなかったにちがいない。

幸福をもらった日だと思う。