2015年5月14日木曜日

シュ、シュールな日


マーケットのレジの横で、私のバッグから、ばらばらといろいろな物が落ちた。
ひろい集めて、支払をすませ、「重いよなー」と歩く。
大根だとかビールの缶だとか。車じゃなくて歩きの日になんでこんな厄介な物を買ったのか。
やっとこさバスに乗って、のろのろ降りてうちに着いた。
そうしたらどうよ、鍵の束がない!

しょうがない、外階段に腰かけて、冷凍のエビと冷凍じゃないブリと大根を呪いながら、
尋ねた場所にケイタイでいちいち電話する。車の鍵まで落とすなんて。
ほかのものは全部あるのに家に入れずクルマの運転もできず。
けっきょく、
マーケットの守衛さんが保管してありますと言ってくれて、ゾッとしたのは治った。
よかった、たすかったと、私は次に心底親切な後藤さんの家へと駆けて行き、
お魚を預かってくださいとお願いした。もうよかった、後藤さんが在宅で。
「ちょっとあなた、はっきり言って。
冷凍庫に入れるんですか、それとも冷蔵庫に入れるんですか、どうなの!」
私はのぼせているから、
エビの方は冷凍、ブリの切り身の方は冷蔵庫です、とどなって駆けだした。
つまりバスにできるだけ早く乗りたいのである。

鍵をようやくゲットし、庭で鈴蘭の花束をつくり、後藤さんのお宅にお礼まいり。

後藤家の玄関の木製の重い扉が開く。
「はいはいはい、よかったわね」
後藤婦人はにっこり、台所へと、せかせか急ぎ、
私のエビを冷凍庫から、私のブリを冷蔵庫からとりだした。

その待っているあいだに、私は見るともなく玄関の扉と壁の間を見たのである。

後藤さんのお宅では最近ドアに凝ったインドネシア風の装飾をしたみたい。
うーんと、これヤモリかなゴムか金属製の? トカゲじゃないみたいだと思うのである。
後藤婦人がスリランカみたいなところにいらした時のおみやげでしょ、きっと。
私はその「装飾物」を、じろじろ見つめる。平べったくて緻密な完全体。すっきりして美しい。
後藤さーん、これいいですねえと今やカギもあるし、私はほがらかだ。
「でも、どうしてここに飾ろうとお考えになったんですか、わざとなの?」
ドアのヨコの厚みって場所がすごくリアルだ、危うくホンモノとまちがえそうである。
めずらしい、後藤家ってこんないたづらはしないタイプなのに。

「なになになに、どこ!」
後藤さんのほうは、私を待たせまいと誠実一直線、即反応。
冷えたエビとブリを私にサッと渡して、すぐさま、なになに、どこどこと真剣である。
こういう後藤さんが私はゼッタイ好きで、つい期待しちゃうんだけど、この日も、
「なんですって、なにがどこですって?!」
そう私を問いつめるや、
後藤さんはニコリともせず、ドアのその一点にぴったりと顔を近づけたのである。

あなた、これ!!
あらいやだ、じょっーだんじゃないわ、ぎゃー、いやだ!
ちょっと、ちょっと、これは本物よ、どうしたの、まー、どうしたんでしょ!

ーつまりヤモリがでるのこの団地?

おどろくことでもないのか。
その夕方、私がうちの車のドアをあけたら、ちいさな蜘蛛がドアとイスの背もたれのあいだに、
デリケートに巣をかけていたんだから・・・・。
蜘蛛くんともあろうものが、ばったんと扉をしめられるとはユメにも、考えなかったんだろうか?

でもさあ初夏とはいえヘンじゃない、こんなにたて続けに?