2015年5月27日水曜日

下級医師


私がかかっている歯医者さんは、一人でいろいろなことを考えるという。
たとえば医学の世界で歯科医師の位はどちらかというと低い。
病原菌に一番ふれやすい口中の治療であるのに、インフルエンザの予防措置が
内科医、外科医にくらべて放っておかれる。
そんなこんなでぼくは、下級武士ということばがあるけれど、
自分は下級医師ということだろうかと考えるんですよね、と。

私はせんせいから紙片をいただいて、財布のポケットにいれている。
治療後、私のなかなか治らない癖を改良しようと、先生が話しながら書いたメモ書き。

話の内容は、たとえばこんなふう。
人間には、クビから上に、目があって鼻があって、耳があるでしょ。
それから舌ね。当然口も ね。頭の近くですから「意」というか、そういうものも。
ぼくたちはそうと思ってはいて、このどこかがワルイと、つい緊張するわけですよ。
ワルイ部署だけで。
でも中国の医学書なんかを読むとね、どうも、歯をグッと噛んでしまうような時だけど、
このぼくたちが備えているそれぞれの部位にも「識」を任せろと。分かちあってもらいなさいと。
そう書いてあるようなんですよね。
ぼくはまあ、よく解っているわけじゃないですけども。
そう意識することによって「解」とかね。みょうこう、「妙好人」という境地に至るのかもしれない。

ふーん、妙好人・・・かあ。
なぜか、治癒もまもなくという気持ちになるから不思議である。

カミュの小説、「ペスト」の主人公である医師リウーは、こんな人だったのかもしれない。
治療を受けた日、歯医者さんからホッとして帰るので、
そのことにビックリしている自分に私はビックリするのである。