2013年12月22日日曜日

F.B.Y というライブ


吉田くんが歌うのは初めて、と誰かが言っている。
JR大塚駅徒歩2分。心細いようなビルディングを五階まで上がった狭い廊下。
音楽スタジオの前に7、8人ぐらいが集まっていたろうか。
私はオーバーをライブのあいだずっと着ていた。寒かったんだと思う。
でも、思い出すとぽかぽかと暖かい気持ち。

3マン企画。吉田将之と、バーンと、fruit and veggies。 

廊下の古い椅子に腰かけて、開場を待つあいだに、
ジンにCDをつけて500円なんてと驚いて心配する声が聞こえていた。
プログラムのことをジンと思わないから、飲み物つきなのかしらと不思議な気がしていた。
ビールじゃなくてジンをだすの?と勘違い。
来て待っている若者の顔がなんとなくわかるようになったのに、
腰かけで人のうしろからライブを覗くだけの10年だったから、
私はイロハがのみこめていない。

吉田君はニコニコしている。
私のことを知ってくれているのだ。
私も彼をどこかで見たことがある。さてどこだったのだろう?

彼の女の子だか男の子だかわからない表情の動かし方は、めったにないものだ。
どうも違和感があるんだけれど、あんまり好意にみちたきれいな顔なので、
女の子のような男の子のようなその顔に降参してしまう。
たまご型の白い顔。
紺色のカーディガンは白い水玉模様で、この人はピエロ志向なんだろうかと想像する。
ギターを持って歌いだしたら、ポエティックな風情にとても心を打たれた。
炭鉱の坑道から地上のさらにその上の上の蒼空を見上げるような。
あんまり上を見るので、白目がひっくり返って、まつ毛が目玉に逆さにかかっている?
そんなすごい顔が天使のように見えたりするのでホッとする。

歌がまたすごくよかった。

私は彼のつくったプロテストソングに感動した。
彼の歌は、余すところなく私たちの身の置き所のなさや、
絶望とはまた異なる果てしない失望を、そしてまた努力して手に入れた輝く小さな喜びを、
なかなか怒りに収斂されてゆかない、もどかしい憤怒を、
無理なく、しかし非常にはっきりと表現していた。
あの、めずらしいほどの、果てしもなく明けっ放しの好意。
放浪芸のようなズダボロの強靭さ。
彼はそのほかに「ディエゴ」という支離滅裂な?歌をうたった。
ディエゴのタケシが今までに歌った詩句を羅列したそのみょうちきりんな歌は、
私なんかには判然としないタケシの本質をよくとらえて、
時にはタケシよりタケシらしいのだった。

(ジンを休憩時間に読んでみたら、この日のライブは勉の「ステイ・フリー」パン店の、
三周年を吉田くんが祝ってくれた、そういう企画だった。みなさん、本当にありがとう)

バーンの音楽に酔いしれるような演奏も、大学生だという二人の可愛い女の子の演奏も、
ちょっと主催した人にかなわないような、それがまたすごく心地よい夜だった。
お客がみんなゆっくりオンボロ椅子に腰かけて、必要なとき手伝ったりして。

・・・ルーマニアのルビー色したホットワインを飲んだ時みたいな夜だった。