2011年8月18日木曜日

山荘で夏休み

山花郁子さんの山荘は聖(ひじり)高原の林の中にあった。

水の流れのあとを残す黄土色の小道に、風が吹く。
水音を隠す草の斜面、
蕗(ふき)や、こごみ、秋には小さな栗の実が落ちるという低木、
家の裏手のどこかには、たらの芽が取れる木もあるという。
なんてすがたのいい雑木林なんだろう。
春に咲きだす山の花も、今は、緑のくらい影にうもれている。
小鳥が手を貸したらしい実生まじりの木々が、
ぐるっとこの小さな山荘をかこんでいる。

聖湖畔の花火大会。
バスが別荘に住む人たちを迎えに来る。
林を出て少し歩くと、
パイプ椅子や飲み物を抱えたおなじみらしい人たちに会った。
山花さんが、挨拶をしている。
「霧がねえ、出ないでくれるといいんですけれど」
「おととしかな、あの時は花火がまるで見えなかったですもんねえ、霧で」
見上げれば空模様をかくす木の枝に、
ついさっきまでの稲光と落雷と豪雨のあとがある。
樹木の上から金色の光がにさしこんで、
不意に強い雨がやんでくれたのだ。
「なんだか意地悪するのよね」
「ホント、じらすんだよなあ」
ここでは、お天気さんは「ある人物」という感じ。

バスが山道をぐるぐる降りて湖に着くと、パトカーが見えた。
あらあら。
よその県の乗用車が、坂道から転落したのだとか。
警官が二、三人。なにもできていない様子。
道路はゾロゾロ雑踏だが、緊迫もしていない。
倉庫の前庭の石の階段のわきに、車がドスンと無事に落ちていた。
脱出したのか、横で若い人が子どもを抱いてあやしている。
小さい湖の、うっかり事故。ぶじでよかったー。
落ちた場所は坂道なしの石段のみ。車は階段をヨジ登れない。処置なしだ。
お巡りさんだって手をこまねいているしかないわけである。
でもよかったとホッとして、のんびり。
「あした、クレーン車だなあ」
花火大会の開始がせまっているので、
人の群れは花火見物の場所取りへと、進んで行く。

どこに陣取りをしてもこれだと花火はよく見える。
小さな湖。人出もなかなかで、ほどよく賑やかなのだ。
たこ焼き、焼きそば、お好み焼きにトウモロコシ。人気はやっぱり焼き鳥。
どの屋台にも行列ができている。
打ち上げ開始は七時だから、あと十五分。
さむいぐらいの風に吹かれて、ゆっくりのんびり、しかもワクワク。
私たちは、バスから遠からぬ湖の縁に、持ってきたシートを敷く。
湖からやってくるブイブイした風。
雲はないけど、星も見えない空。
霧は向こうの林のてっぺんにひっかかって、ここまではこない。
なんとはなし、お天気にいじわるされそうな雲行きである。
バスのそばにいたほうが安全である。

ドッカーン!!


花火大会が始まった。