水の流れのあとを残す黄土色の小道に、風が吹く。
水音を隠す草の斜面、
蕗(ふき)や、こごみ、秋には小さな栗の実が落ちるという低木、
家の裏手のどこかには、たらの芽が取れる木もあるという。
なんてすがたのいい雑木林なんだろう。
春に咲きだす山の花も、今は、緑のくらい影にうもれている。
小鳥が手を貸したらしい実生まじりの木々が、
ぐるっとこの小さな山荘をかこんでいる。
聖湖畔の花火大会。
バスが別荘に住む人たちを迎えに来る。
林を出て少し歩くと、
パイプ椅子や飲み物を抱えたおなじみらしい人たちに会った。
山花さんが、挨拶をしている。
「霧がねえ、出ないでくれるといいんですけれど」
「おととしかな、あの時は花火がまるで見えなかったですもんねえ、霧で」
見上げれば空模様をかくす木の枝に、
ついさっきまでの稲光と落雷と豪雨のあとがある。
樹木の上から金色の光がにさしこんで、
不意に強い雨がやんでくれたのだ。
「なんだか意地悪するのよね」
「ホント、じらすんだよなあ」
ここでは、お天気さんは「ある人物」という感じ。
バスが山道をぐるぐる降りて湖に着くと、パトカーが見えた。
あらあら。
よその県の乗用車が、坂道から転落したのだとか。
警官が二、三人。なにもできていない様子。
道路はゾロゾロ雑踏だが、緊迫もしていない。
倉庫の前庭の石の階段のわきに、車がドスンと無事に落ちていた。
脱出したのか、横で若い人が子どもを抱いてあやしている。
小さい湖の、うっかり事故。ぶじでよかったー。
落ちた場所は坂道なしの石段のみ。車は階段をヨジ登れない。処置なしだ。
お巡りさんだって手をこまねいているしかないわけである。
でもよかったとホッとして、のんびり。
「あした、クレーン車だなあ」
花火大会の開始がせまっているので、
人の群れは花火見物の場所取りへと、進んで行く。
どこに陣取りをしてもこれだと花火はよく見える。
小さな湖。人出もなかなかで、ほどよく賑やかなのだ。
たこ焼き、焼きそば、お好み焼きにトウモロコシ。人気はやっぱり焼き鳥。
どの屋台にも行列ができている。
打ち上げ開始は七時だから、あと十五分。
さむいぐらいの風に吹かれて、ゆっくりのんびり、しかもワクワク。
私たちは、バスから遠からぬ湖の縁に、持ってきたシートを敷く。
湖からやってくるブイブイした風。
雲はないけど、星も見えない空。
霧は向こうの林のてっぺんにひっかかって、ここまではこない。
なんとはなし、お天気にいじわるされそうな雲行きである。
バスのそばにいたほうが安全である。
ドッカーン!!
花火大会が始まった。