2012年11月17日土曜日

松元ヒロ ソロライブ立川・11/16


・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・。

「私、コロッケと松元ヒロと比べると、松本ヒロがすきなの」
会場で私がそう言ったら若いお母さんが心底びっくりした。
「えーっ、ホントですかあ!!」
彼女はヒロさん初めて。
もちろんコロッケは誰もが知っているビッグな有名人だ。
いま流行の言い方をすれば国民的芸人、とそう言える。
私だってコロッケは好き。公演に出かけて、天才だこれはと思ったぐらい。
でも、比べるわけじゃないけど、ムリに比べると、
私は松元ヒロのファンなんである。

なんでこんなことから「ソロライブ」の感想文をはじめたか。

じつのところ、なにかが気になっちゃって、
なにを言いたいのか三日もわからなくって。
冒頭の ・・・・・・ ・・・・・ は私の悩みなんである。
ところが今日になってなんとかそれがわかった。
どうやったら短く言えるものだか、見当がつきませんが。

NHKのアナウンサーが逮捕された。11/15 だったかしら。
私はテレビを見ないから知らないが、だれでも知っているような人だという。
容疑は電車の中での痴漢行為である。
本人は泥酔していて、記憶がない、と言っているんだとか。
「こういう人が痴漢だといって逮捕されると、ホントかなーと反射的に思っちゃう」
友人にそう言われて私はすごくびっくりした。
彼はNHKではわりと自由に話すタイプのアナウンサーで、
権力の側から見ればこまったヒトかも、というのである。
「あなたは、これがデッチ上げだと言うの!?」
もちろん今の段階ではまだなにもわからない。

でも、そういう時代かも。

そういえば「ニッポンの嘘」という映画だ。
90才のカメラマン福島菊次郎さんのドキュメンタリーを観ると、
福島さんが自衛隊基地の撮影禁止区域を写し、それを公表するや、
ヤクザに襲撃され、家は放火で全焼。
娘さんがお父さんのフィルムをとっさに持ち出さなかったら、
福島さんの撮りだめしたすべての記録は消失したはずだった。

今日、松元ヒロはマルセ太郎の面影とともに、「ニッポンの嘘」を
コント仕立ての大笑いにして再現、まことごもっともの批判や諷刺をして見せた。
批判だけするのではない、いつだったか、
パントマイムとともに中原中也の「幻 影」を朗読したあのおもしろさ、
廃校になりそうな小学校の校舎の建築美を、校舎になって!やって見せたこと、
山口の画家香月泰男の美術をまるごとコントに仕立てたこと・・・。
松元ヒロってスゴイ。
ヒロさんのライブに行くたび「松元ヒロに代わりに言ってもらってる」と私は思う。
なんかこう、無意識のシバリが溶けるんだけど、
この無意識のシバリとは、言論の不自由だろう。
気がつけば、言論の自由からひどく遠いところに自分はいるとわかって、
まー笑いこけちゃうんだけど、
いつもはずかしいような気に私はなる。

大笑いしながら辛らつな諷刺や批判とむきあうことって、
ものすごくだいじな私たちの娯楽でしょ。
基本的人権の砦(とりで)のひとつだし。

ソ連邦がガタガタして、ペレストロイカということばが日本に入ってきたころ、
ロシア製のオペラを見た。オペラだから高額チケット。
ソ連は極貧状態だとかで、『装置はぜんぶゴミ集積場・夢の島でひろった本物のゴミだ』と、
ものすごく立派なプログラムに書いてあった。
演出家も歌手もプロデューサーもみんな亡命先からソ連に復帰した超一流のロシア人。
技術は世界最高、たしかにすばらしい水準の作品だった。
私が見た日は「ウラジミル・イリイチ・レーニン」がオペラに登場。
もう本物みたいにソックリな歌手が主役で。
忘れられない。
オペラのレーニンは縞のパンツだけ、ネクタイを裸体の首にまき、ホモということだった。
私は、ふかふかの国立劇場の座席に凍り付いて腰かけていた・・・・。

休憩時間がきて、化粧室に行き、鏡にうつった自分の顔をながめた。
ショックで本気にこわばっちゃっている私。
「スターリンならともかくレーニンまでこんなふうに言っちゃうの!?」
私はマキシム・ゴーリキーの書いたレーニンを思い、
エー・ヤー・ドラプキナの名作「冬の峠」に描かれたレーニンを思った。
若きコムソモールたちと話す人類の理想のようなレーニン。
私はそういう、権力から自由なレーニンが少女のころから好きだった。

それはずーっと、ながい時間をかけて、考えずにはいられないことだった。

けっきょく私はこう思った。
どんな指導者も、左翼だろうと右翼だろうと、
権力をもてば、告発や諷刺の洗礼を避けては通れない。
諷刺や批判を権力や暴力でつぶさないこと、それが民主主義なんだ。
それがいい政治なんだ、理想の社会はそうなんだ。

今、生きる毎日のくらしがつらくて、潰れる寸前みたいな自分の代わりに、
「お笑い」を磨きにみがいて、人間の自由を描く人。
松元ヒロはめずらしくも稀有なる芸人である。
立川市民会館でのソロライブからの帰宅途中、ヒロさんってたぶん、
脅迫されたり、それはイロイロあるにちがいない、とみんなが言った。
そう考えてみると、自民党の国会議員だった立川談志が、
最後までヒロさんをヒイキして後ろ盾になっていたということは、
実際問題としても、たいしたことだったのかもしれない。
ヒロさんが放火されたり、冤罪の被害者になったり、狙われて殴られたり、
そういうことがどうかどうか始まりませんように。
もうホントウにそれが心配だ。

「新宿公演のときとネタが重なってと、ヒロさんが心配してました」
立川市民会館の出口のところで、子ども劇場の若い人が言ってた。
「だいじょうぶですよねえ?」
もちろん大丈夫である。二回の公演がまったく同じだってとても楽しいと思う。
まー、私なんか、新宿であんまり笑ったから、こんどは十人で立川に来たのだ。

大丈夫じゃないのは、今やもっと別のことだと思うのである。