2013年4月1日月曜日

フォーラム/統合失調症を生きる


統合失調症は病気である。
どんな病気かといえば、原因はまだはっきりわからない。
遺伝子だけの問題ともいえない。
100人に1人がかかる病気。
情報を伝える神経伝達物質のバランスがくずれると、大きなストレスがかかって、
この病気が始まる。

つらい病気である。
私の叔父が患者だった時代には精神分裂症とよばれていたのだ。
資料によれば、回復しても再発率が、1年後54%、5年後82%。
ところが公開討論をきいてハッキリわかったことだけれども、
病気を正確に理解し、患者がぶつかる不安をちゃんと解決し、
社会(地域資源という)が具体的に、社会復帰した当事者を支えれば、
再発率は低下する。再入院率も低下する。
つまり、まわりにどういう人々がいるかによって、
克服可能な病気ということができるという。

まわりにいる人とは、
もちろん家族、もちろん当事者会、相談支援事業所、
保健所とか、保険福祉事務所とか、地域活動支援センターだとか。
市区町村の窓口もそう。
NHKのフォーラムは、窓口が、それなりに気持ちよく病む人に対応した「実例」を、
1000人の人に知らせるものだった。
そういう窓口や理解者に出会えたヒトを「当事者」として紹介するものだったのだ。

じぶんの息子とあの若者とがほんとうによく似ているとビックリしながら、
あの日、私がなぐり書きしたエンピツ書きのメモにこういう一行。
「ウツの専門家は当事者だよ」
だれがそう言ったのか。もうひとりの女性の当事者だったろうか。
息子にソックリの若い当事者の発言を追いながら、
彼がふたりの精神科医を気遣って、自分の発言を微調整したのに気がつく。
純粋で、正直で、しかし必ずしも真実ではないかもしれない・・・、批判はしない・・・、
そういう我慢強いともいえる彼の社会性。

家に帰ってからフォーラムのことを話すと、
息子は私が持ち帰ったごく簡単な当日配布資料をテーブルから取り上げて読み、
「あ、オレは陰性(症状)のほうだ」と笑った。
統合失調症の症状には陽性と陰性があり、
陽性症状としては、
・妄想・思考がまとまらない・幻覚・変った行動
陰性症状としては、
・感情が無い・何もしない・閉じこもる・意欲がわかない・注意力が落ちる
ざっとそう(メモ代わりに)書かれている。そこを読んだのである。

「・・・なんだかこどもの時、あんたってこんなふうだったわよねえ。
閉じこもりこそしなかったけれど」
「そお? オレ閉じこもってたんじゃないかな?」
「閉じこもらなかった。閉じこもる場所もうちにはなかったし、大勢すぎちゃって」
なんでこんな話を自分にするのか、と不意に彼が私にたずねた。
「いや、そうねえ、
あのヒト28才ぐらいなのかなあ、当事者というんだけれどね、
あのヒトがね、どこからどこまであんたにソックリだということはよ、表情がよ、
たとえ統合失調症という病気にならなかったとしても、
もしかしたらあんたは、小さい時からすごく苦労してたのかもしれないなあと思って」
苦労かどうかわからないけど、と彼は言った。
「集中できない、考えがまとまらないことはあった。
自分はほかの子とちがってしまっている、それがなぜだかわからない、
そういうことが、けっこうずっと続いてはいたかな」
おかしなことね、と私は言った。
「そういうことがもう解決した今ごろになって、もしかしたらと思うなんて。
悪かったなー、いったいまあどんな親だったんだか、私ってもう」
「そうだね」
息子が皮肉な口ぶりで言う。
「どんなこと考えてたんだろう、つぎこさんはね」
「あのさあ。
なんかヘンだなとは思ってたわよ、だってあんたってヘンだったもんね。
でも子どもってみんなヘンじゃん? 
だからこれはなんかの才能の一部かもと思ったんだわよ。音楽の、とかさ。
それで日がたっちゃったのよ、忙しかったし。
まーミソラヒバリの母やってたのね、あたしはね」

女性のほうの当事者のことを、しきりに思い出す。
彼女は当事者同士で結婚、6才のこどもと現在は家族3人でくらしている。
なんにもかくさない、真っ正直な、そして思いがけないところで大賢人!という印象。
私は息子に言った。
「あのフォーラムにあなたもいっしょに行けばよかったのに」
病気のこともわかるけど、人間についてよく考えることができる集まりだったから。
精神の病気って、人間そのものについて考えさせるからね。