2014年12月7日日曜日

ももづか怪鳥に逢う


ももづか怪鳥は、ものすごくうまい人なんだと、息子たちが言う。

どうかなあ、かあさん。
うーん、ものすごくうまい人だよ、でも題材がエロとグロとナンセンスのね、お笑いだから、
だいじょうぶかなあ、かあさんの友達たちがさあ。
うん、ちがうよ、すごくいいよ、自分たちはそりゃあ好きさ。
でもさあ、あれに耐えられるかしら、かあさんはとにかく、ほかの人たちが。
すごいからねえ。


ライフイズウォーター恒例のプライベートライブの日。
池ノ上の「ガゼルのダンス」帽子店のロマンティックな会場に行くと、
ももづか怪鳥は、地味にギターにとりついていた。
一時間前だ。
まるい毛糸の帽子をかぶって、寒い北風のふく日だったから、カーキ色の半外套。
よく響く声、ていねいで。冗談っぽくて。

健はじぶんが怪鳥さんに競演(タイバン)をお願いしたのに、
相手が格上でうますぎるから、先に歌わせてくださいと頼んだそう。
・・・それで健が10曲うたうと、ももづか怪鳥の番になった。
それじゃあワタシの番なので、とこの年齢不詳みたいな若い人は着替えに消えた。

きいてはいたけど、ももづか怪鳥は股間をふくらませた赤いパンツだけで、みんなのまえに
あらわれ、なんだか細身の、なんともいえない姿だった。ははは。
さむそうな足に靴下をはこうとし、靴もはいて、頭にはプロペラつきの若草色が入った
キャップをかぶり、顔にはまばらな口ヒゲとシワが描いてあった。

自信たっぷりと不安だらけを集約して・・・、とんでもなく彼は私たちをおかしがらせる。
とにかくサザエさんのお父さんが長身になって発狂したみたいな姿なのである。
次から次へと、へんてこりんな、みょうちきりんな歌を彼はうたった。
痴的で知的?なその歌詞を、笑うばっかりだったから、今じゃまるで思い出せない。

なんてステキな芸だろう。

うまくいいあらわすことなんかできないが、
でも言ってみれば、おとぎ話の王様が不思議にも手に入れたヘンテコなふざける小玉だ。
王様は王様だということに倦むと、このオヤジ小玉で時々ひまつぶしをする。
玉のほうは喜んで、替わり玉ボールみたいに千変万化、眼をむき横目をつかい、
粉骨砕身、手あたり次第に世のありようをこき下ろし、お追従もいい、笑いカッ飛ばすし、
すごすごと引っ込んだりもして、おとぎの国の王様の元気再発掘、
すごいすごいすごいで日が暮れるという按配なのである。

ギター演奏の技量と、響きわたる声と、あの奇天烈なカッコウ、彼がつくる歌詞、
身体能力、表情の的確な変容。
ぜんぶがぜんぶ、轟音をたててへんなぐあいにいっぺんにすっ飛んでゆく。

よべばきてくれるのときいたら、いいですよぜひと言った。
私のすきな人たちに見てもらえたらどんなにいいだろう。
世の中にはあんな人もいるんだと、びっくりするような一日で、みんなが幸せだった。
笑いこけるのが爽快でついついビールを沢山のんじゃって。

むかし新劇の世界にいたころ、芸品という概念を私は習った。
上品ではまったくなくしかし下品でもなく、彼にはあやうい芸品があった。