2012年4月30日月曜日

おいしい珈琲を飲むには


やっとのことで訪ねて行くと、
ドアをあけるなり、珈琲の新鮮な香りがして、
専門店ってステキなものだ、やっぱり。
小さくて新しくて、スカッと凝ったつくりの、珈琲豆を販売する店。
ここの女主人は、珈琲をきわめるために外国までいったのだとか。
まだ若い人である。一人を幸いその人にきく。

「おいしいコーヒーを飲みたいなと思ったら、どの珈琲豆を買えばよいかしら。
私は特別に好みがあるわけじゃないんですが」
ええと。いつもはどういう銘柄を飲まれるんですか?
「それが行き当たりばったり、なにを飲んでるんだか、おぼえてないの」
わからない? そうですか、でも珈琲はお好きなんですよね?
「好きだとは思う、まあふつうの人とおなじぐらい飲みはしますね」
うーん、なにがいいかしら、こまったなあ。
このまえうちにいらっしゃった時、なにをお持ちになりました?
「キャラメルの香りがした、そうだ、そこにあるクレオパトラだ、あれはいやなの」
ああクレオパトラって、たしかにキャラメルの香りがしますね。
じゃあブラジル系・・・。どういう感じのものがお好みなんでしょうねえ。
「あのね。珈琲らしいのがいいの」
ええっ!
「いや、あの、そりゃ珈琲なんだからぜんぶが珈琲らしいにきまってるんだけども」
珈琲らしい、ですかあ・・・、ええとぉ、どんなんだろう?
もうちょっと説明していただけません?
「飲むでしょ。そうするとふわあっと、ああ珈琲だなあって、
いいなあってホッとするようなのよ、そういうのがいいの。」
エーッ、どんなんだろう、それ?!
こまったなあ、これは!

彼女は試飲のための珈琲を、話ながら私のためにたて、すっと出してくれる。
疲労気味の私は、ありがとうといってなにげなくそれを飲む。
「あー、これだあ。 ああ珈琲を飲んだ、ああいいなあってホッとするわよ、これ!」
そうですかあ、こんなもんでいいんですか、と彼女は笑った。
これ、なんのこともない、ふつうの珈琲豆をつかってるんですけどね。

そうなんだけど、と言って、あらためて教えてくれた。
(1)ヒトが入れてくれた珈琲って、やっぱりおいしいものなんですよ。
(2)ぐらぐら煮え立ったお湯をつかうと、おいしくならないんです。
湯冷ましをして、日本茶をいれるような加減がいいですね、珈琲にはね。
(3)それからやっぱりお豆を古くしないことです。真夏はともかく、
ふつうの気候のときは、容器に密封し常温で保存、が豆にはいい。

さて、あの人ほど、おいしく珈琲をたてられるわけがないけれど、
それでも楽しむことが、私も少しはできるようになった。
ゆっくり、落ち着いて、とそれもコツなのでしょうね、きっと。
それで挽いてもらった珈琲豆の名まえは、モカイルガチェフ。
いかにも、という名まえでしょう。
カンの蓋をあけるとふわーっといい香りです。