2012年5月3日木曜日

ノスタルジイ


「フイチンさん」という漫画があって、なんかい読んでもあきない。

作者の上田トシコさんはとっくに故人だし、
物語は20世紀はじめの頃のハルビン、
中国は黒竜江省、松花江すなわちスンがリー南岸の商業、交通の中心地。
フイチンというのは、ハルビン第一の大富豪リュウタイ家の門番の子で、
リィチュウ坊ちゃまの子守り、これはむかしのハルビンの子どもの話である。
古い本だけど、復刻版が図書館にあったのを息子が見つけてくれて、うれしくて、
もうなんどでも読む。三巻を朝昼晩、朝昼晩とくりかえし読んじゃうぐらいだ。
あんまり熱中するので、「おもしろいの?」とみっちゃんが息子にきいている。
「どういうところがおもしろいの?」
彼がいくつか答えた中に、ノスタルジー、があった。

ノスタルジイ。

ノスタルジーはどこからやってくる? 不思議。
「フイチンさん」は、雑誌「少女クラブ」で小学生の私が読んだ漫画なので、
私が懐かしいというのは、ふつうでしょ。
それに、まちがいなくいま読んでも楽しく、復刻版がでるほどの名作だ。

・・・・あのころを知らない子もノスタルジーと思うのかー。
ノスタルジーとはむかしを想う気持ち、広辞苑をひけば懐旧の念、である。

上田さんは、いわゆる引揚者であった。
むかし、子どもだったころ、「大陸的な」ということばをよく耳にしたけれど、
敗戦の後、中国から引き揚げてきた人たちはどこか大陸的だったろう。
「フイチンさん」の上田トシコさんは、いま思えばその典型のような人で、
漫画がほんとに大陸的。こまかいことにはこだわらず。
作劇だってうらやましいぐらい大ざっぱよ。
楽天的、陽気、おおらか。人間観はいかなる場合も品がいい。
ストーリイの運びだって、時系列だって、いいからいいからみたいに雑なのよ。
あのころ日本の編集者も、おおざっぱOKだったのかなー、いいわよーホントに。

ノスタルジーとは。
私の場合、映画「チャイニーズ・ボックス」1997年 の唄のような感覚。


夢の都が かなたにあるという
道に黄金が敷きつめられた都
それは国境を越えた向こう側のどこか
もしも君が その都をめざすなら
これだけは言っておこう
夢みたよりも失うものの方が多いということを

はかない約束の地に たどりついた時
君のその手から夢がこぼれ落ちても
あともどりするには遅すぎる
あまり遠くまで来てしまったから
そこが君にとっての終わりの地
君はもう、はるか国境を越えたのだから