2012年5月10日木曜日

鶯に会う初夏


鶯が、ほーほけきょ、と、
桜なのか欅なのか楓なのか椎の木なのか、
若葉いっぱいのどこかでほがらかそうに啼く。
頭上の空が青みをまして、ツーンと遠ざかる。
毎年、どこにいるどこにいると、私はついさがしちゃって、
ある時、樹木から離れて、鶯らしくもなく電線にとまって
ほーほけきょ、ほーほけきょと、明智探偵になったみたいに啼いたから、
さあ、もう今度こそちゃんと見たと思ったけれど・・・・、
この小鳥は夕暮れの空に溶けて、目をこらしても影でしかないのだ。
なぜだか、
私にとって鶯は、
言ってみればヒタキ科のメボソムシクイ、
抹茶みたいな色した早春の鳥のはずなんだけれど。

鶯って、みどり、でしょ。

むかし、絵本をみながら、ひとりでカンちがいをしたのか、
現実のウグイスは、
目をこらしても目をこらしても、
見たことにはならない茶色の地味な小鳥。
ほんとに雀(すずめ)たちのほうが、まだ個性的だ。

樹を一生懸命見上げて、鶯の姿をさがしている女の人が微笑む。
そうなんですよねえ。
あんなにきれいに啼くんですけどねえ。
残念そうな声の、あたたかいやさしさ。
なついてくれない親類の子どものことでも言うように。
なかなか見つかりませんし。
ああ、飛んでいっってしまいましたねえ。
どこにいるのかしら、わからないのよねえ。
少しはなれて立って、
日よけの白い帽子の知らない人と、
ちいさな影が飛んでいって、どこかに消えるのを見送る、
そんなこともある陽光新緑の日。
ウグイスって!