2012年5月23日水曜日

教育学者 大槻 健先生の精神


大学時代の友達が、労働旬報社のブックレットを送ってくれた。
私はおなじものをいつだったか記念に(!)買って、本棚にツンドクこと十数年。
タイトルが「教育基本法の精神」(1997年)。
著者はというと、大田 尭、大槻 健、丸木政臣、三大先生のそろい踏み。
読みやすい小冊子で、手にとるとすごくなつかしい。

というのも、私って中学の時は丸木先生に社会科を習い、大学は大槻ゼミ、
子どもの親になってからは大田先生になんどか講演をお願いしたという、
まあこの人たちの、生粋でもないけど、ジカの生徒だったのである。

ブックレットを手にとると、大槻先生の声が、耳に聴こえる。
先生はご自分の著書を私にくださる時、ニヤニヤして、
「読まなくていい、今度の本は君には難しくてわからんよ」
とおっしゃって。ははは。
私が講演をお願いすると、きてくださって、どこかの赤ん坊といつまでも遊んでいた。
先生には子どもがいなかったのだ。

大槻先生が亡くなるすこし前のこと・・・。
退院のお迎えに行くと、帰るまえに病院の喫茶室に行きたい、と言われた。
それで、混雑しすぎの病院の廊下をゆっくり、ゆっくり歩き、
喫茶室のなかの空きテーブルをやっと見つけて、こしかけた。
退院の手続きをたのむとおっしゃるので、お財布をあずかり、
事務手続きをすませてもどって行くと、みんなが、にこにこしている。
どうしたのかしらと思ったら、
「君の註文したものを僕が度忘れして、どうしても思い出せないんだ、
そうしたらとなりのテーブルの方々が、たしかジンジャーエールとみつ豆って
そう言ってましたよ、と助けてくださってね。いや、ありがたかったよ」
もう先生は、食べることも飲むこともそんなにできない時だった。
先生が註文なさったものは、けっきょく私が代りに食べたのだ。
そんなに長くすわっていたら疲れてしまうと思い、
先生、そろそろ帰りましょうか、とおそるおそるたずねたら、
その時は素直に、あまり素直じゃない人なんだけど、立ちあがり、
支払いをなさって、それから見送りにきた喫茶室の店長にこう言われた。

「ここに入院しているあいだ、君たちには僕は本当に慰めらた。
いつ来ても、親切で気持ちよく応対してくれて、僕は、実に感心していたんだ。
今度、いつここに来られるかどうか、それはわからないし、
来られないにこしたことは無いわけだが、
僕は、君たちに心から御礼を言ってから、家に帰りたかったんだ。
本当にお世話になった、有難うございました。」

とても古典的な光景で、忘れられない。
思い出すとうれしい。