2015年2月16日月曜日

プライベイト・ウェイズ5/ガゼルのダンス



「ガゼルのダンス」は池ノ上の古びた詩のような帽子店で、池ノ上は下北沢の隣の駅、
昔ふうの通りがそのまま商店街になっており、街並みにそう高い建物もなく、
そんな通りをガラス越しに店内からずーっとながめていると、通行人や車が、
どの人もどの自転車も物語性を帯びて、音楽をよそに行き過ぎる・・・。
なぜ私がずっと眺めていられるかといえば、店主のアキヤマさんという女の子が、
ひとりになったタケシに、プライベイト・ウェイズという定期ライブの会場として、
彼女の店を貸してくれるからだ。
きょうアキヤマさんは赤いセーターに料理人用のくたびれたエプロン。
セーターの赤が、時々20人ばかりの客人のあいだを縫っていく。
照明はすこし暗め、帽子と造花とアンティークな古道具いろいろ、
富では集められない文化というか、滅びてほしくないものを、アキヤマさんは集める。
だれかが操作するBGMだっておだやかで気にさわらない。

タケシはずっとディエゴというバンドを組んでいた。

きょうはディエゴの時のイマちゃんが来ている。
赤ちゃんはもうすぐ3か月。
うちに見せに来てくれるとずっと前から言っていて、それが今月の28日になった。
アキヤマさんたちも来るというから私はうれしい。
「ユーロ」は、ディエゴではタケシとイマちゃんのデュエットの曲だった。
アキヤマさんがいる小さな台所の前に立っていたイマちゃんが、そのまま、
外套を着て帽子をかぶったまま、タケシに言われて歌い出す。
何年も前に、遥が外国から帰ってきた冬、姉弟でつくった「ユーロ」だ。
自虐的ユーモアが遥らしい曲。イマちゃんが歌うと絶望の分量が減って温かい。

クジ引きをして、今晩は中田真由美さん、おれ、夕子、タケシの演奏順だったが、
中田さんがシャーマン的凄みのある、実にきれいな完璧ともいえる演奏で。
二番手になった「おれ、夕子」とか名乗っているイケちゃんは大変だったろうけど、
演奏の純度がすごくよくなって、
それは聴くほうだって、とても気持ちのいい晩だった。

福田さんが今日はきてくれた。午後の講演会からずっとのおつきあい。
温かいラムとオレンジのなんとかと、冷たいハーブのワインを私たちは飲んだ。
・・・異国的下ごしらえのチキンカレーを食べる。
アキヤマさんは、なにをやっても、どこかとても上手なのである。