2015年2月19日木曜日

歯医者さん


私の歯医者さんが言った。
「そうだ、3年、来ていないんだな」
そして言った。
「おたがい、3年ぶん、それぞれに年をとったわけですね、ははは」
50代になったそうだ、先生の方は。

歯医者さんの治療は、一応まったくもっていやだ。
こんないい先生でも。

「どういう時、歯を噛んで、喰いしばってしまう?」
私は考え込む。3年まえだったら、一日中、という答えだったけれど。
「わかりません。・・・本 を読んでる時かなあ、気かつくとギュッと。」
うんうん、と先生は言う。
どんな姿勢で読んでいるんですかと立ったまま、にこにこ。
あのう、と私は言う。
「ソファーに大きなクッションと小さなクッションふたつを組み合わせてよっかかって」
久保さんだったら本だろうなと思った、と先生は言う。
この歯医者さんのところでは過去のデータがきちんと保管され、それが使われる、
というか先生は患者とそれを共有する。
「長椅子はラクだし、3冊かわるがわる読んだりするし」
という私に、先生はふんふんとうなづきながら、考える顔だ。

でもそれはダメですよと先生が首を振っている。
「うつむいてできる傾斜はダメ。川端康成さんの写真を見たけれど、
書き物机に板で傾斜をつけて、顎があがるように、
でないとどうしても歯に負担がかかるでしょ、そういう工夫をしているんだなと思いましたよ」

キーワードがだいじです。「ギュッと 」とか、「気が付くと」とかね。
それがいつのことかを、まずご自分で記憶してください。
それから歯ブラシをね、自分むきにハサミで改造してもいいですよ。
「えーっ、自分で?」
歯科衛生士さんから、歯の磨き方を教わり、しかるのちやりやすいように、
歯ブラシのヘッドをハサミで刈り込む、自分で・・・?

親の代からの歯医者さんで、このモダンな医院にくると私は、明治を感じる。
そのくせ「革命的」ということばを思いだすのである。