2017年9月20日水曜日

多摩市役所で


市民税と都民税をどうするかという手紙がきて、
市役所に助けてもらいに行く。
少額だからと確定申告もしなかった。
苦手だし、憂鬱だし、放ってあったのである。

怠惰を克服、弱気を圧殺、関係書類と自分をひきずって、
私は、やっと二階22番受付の椅子に腰かける。
今日こそ義務をはたしたい。

すこし話のメハナがついてきた時、右を見た。

さっき老夫婦がいた場所に、いまは小さいおばあさんがいる。
おばあさんは、私を見て、いたいたしく微笑んだ。
おばあさんも困っているし、私というおばあさんもこまっている。
ねえ? と彼女は、侘しい小声で、椅子ごしにいう。
こういうところに来ると、わからないからこわくて。
心配でどきどきするんですよ、もうね・・・・。

薄い長袖のブラウス。急に寒くなった日だけれど薄着なのだ。
さむそう。

華奢な喉に白い包帯が見える。
心臓の手術をしたので、と包帯にそっとさわって、
やっと今日は来たんですけど。ほら、どきどきすると手が冷たくなっちゃうんですよ。

こわいのは私もおなじ。手が冷たいのも。

手は、本当にひえびえと冷たい。
少しのあいだ、私のやっぱり冷えた手で、おばあさんの手をにぎる。
 彼女よりもっと書類というものがわからない自分がいまいましい。
手伝えないし、自分こそ、まだごたごたしている。
この人は利口そうだから、今まで各種手続きも、ひとりで出来ていたのだろう。
それなのに、こういう日がきた、悲しくなって涙ぐんでいる。
「なんでこんなに難しいんでしょう、・・・もう、・・・長くかかって」

このせっぱつまった非難のささやきが、公務員にとどくことはない。
涙ぐんでいるおばあさんをしりめに、お昼だからお弁当を食べているのだ。、

それでもやっとおばあさんの担当の人が戻ってきてくれる、手続きを再開する。
おばあさんは、影のように立ちあがり、その人についてどこかへ行ってしまった。

喉に包帯。疲労と苦しさでいっぱい。・・・耳はきこえるのにあんな大声の説明。

私は、戻ってきた自分の担当者に、謝った。
あなたのお昼ご飯の時間にくいこんでしまって、本当にごめんなさい。
もう私ときたらマイナンバーの手続きでおそくなり、市民票の発行で手間取り、
市民課にきてからだって、手持ちの書類はごたごた、ごく簡単な名称がとっさに出てこない。
 あーあ、もう。
私みたいな者は、こういう大変な場所に、のこのこ出掛けて来てはいけないのだ。


土台が失礼なんだから私は謝って当然だ。
けれど、瀕死のおばあさんには、注意ぶかくしてもらいたい。