2018年1月27日土曜日

水道管の凍結事故


 ピンポーンとベルが鳴る。

顔見知りの方が二人。水道管が大変なことになっていますよ、と教えられた。
外に出ると大量の水が水道管から噴出、雪の上にすごい勢いで落ちている。
早く水道局に電話した方がと言われたが、なんど電話してもダメ。
窓口の録音が、水道管凍結事故が続出しているので、という説明を繰り返すのみ。
時間はどんどん経つ、水は噴出するばかり、進退極まってがまんができず、
またしても細田さんに電話してしまった。
こんなに寒い日に。細田さんは八十才を越えているのに。
「うわあ、ありゃ、ありゃ、ありゃ!」
これは俺じゃだめだ、水道屋でないと直せないよ、と言いながら、
「家に行って、道具を取ってくるから」
水道の元栓をまず閉めて下さって、細田さんはお宅にもどる。
・・・もう水をかぶってずぶ濡なのである。

私は水道屋さんを電話帳でさがしたが、思いついて管理事務所に電話で相談。
「ええと」と彼女が考えてみてくれる。「JSに問い合わせてみてください」
去年理事をやった時、私はこの人にもう散々お世話になったのである。
水はジャブジャブあふれ続けている。玄関に駆けて行くけど、細田さんはまだ。
思いがけず公団に電話が繋がり、JS所属の水道屋さんを手配してもらう。
有り難くてビックリした。
応対が的確、わかりやすい上に、思いやりの深い声音の男の人なのである。
「公団の人は親切ですよ、いつも、あの人達はね」
乾いた作業着に着替えた細田さんが、道具を手に、にこりとしてそう言った。
管の入り口を閉めるフタだったり、ビニールテープだったりの、
細田さんの七つ道具の私物でもって、着々と応急手当が行われていく。
水は一応止まった。地面から滲み出るだけになった。

寒い日なのにとお詫び申し上げると、
「おれなんかもう、八十四だからいつ死んでもいいと思ってね、
できるだけお役にたてればいいと思ってるの、ホントだよ」
笑顔のなかの本気の顔に、ここに引っ越してきてからの長い時間が
思い出された。お願いだから死なないでね、細田さん会うといつも私は頼む。
細田さんがいなくなったら、この団地の人はみんな本当に困っちゃうから。
百まで生きていてね、と私はお願いし、そんなにはちょっと無理だなあと
いつも言われてしまうのだ。

 五時になると、世にも親切そうな年配の水道屋さんが来てくれた。
雪と氷の間で作業して、いろいろいろいろ地面を掘ったり金物を切ったり、
夕暮れのなかで、青いような紫いろのような顔になっているのに、
寒いから家の中にいて下さい、と私にはそう言ってくれる。
「帰ってから計算しますけれど、そんなに工事費も掛からないと思いますよ」

おかげさまで水が止まりました、と報告すると、
細田さんは電話の向こうで「心配していました」と笑ってそうおっしゃる。 
あーあ、不思議なくらい親切な人にばかり会った日・・・。
・・・もう本当に、どうなることかと思って。