2018年1月5日金曜日

大きな食堂で


ふと見ると、向こうのテーブルでおかっぱ頭の茶髪がゆれた。
茶髪に白髪がまぎれこんでいる老いた顔がニコッとする。
かわいらしい、冗談めいた表情だった。
大きな夫がそばにいて、テーブルの上を片づける手伝いをしながら、
妻の半外套をもって立ち上がり、着せかけてやった。
べつに外国風というわけでもない、きっと長いあいだ仲がよかったのだ。

私は見ているだけで幸福になった。

「ねえみてごらん、私たちのとなり」
ちがうちがう、すぐ隣りよと私は言う。
息子が横目で、すぐ隣りのテーブルを見る。
そこに、老いた母親と途方に暮れたような息子が腰かけているのだ。
「私たちみたい、あの息子もきっと三番目の子だね、あっはっは」
ホントだ、うりふたつだ、と息子もあきれて笑った。

その老母だけどけっこう淡々としている、ちっとも不幸そうじゃなかった。