2018年7月26日木曜日

地下鉄京王新宿線


お見舞いに代々木病院に行った。

千駄ヶ谷で降りて、帰りはまた千駄ヶ谷から電車に乗る。
くたびれたからか、熱いからか、ふらふら反対方向へ行く電車に乗った。
どうもあやしいと思いながら、ドアが閉まりそうなので、
あわてなくてもいいのにあわて、あわてるから間違える。
でも不意に、反対でもいいか、市ヶ谷で乗り換えればと思いつく、
よかったと、私は市ヶ谷で電車を地下鉄に乗り換えた。

優先席が空いていたから、座る。
隣には若い男の子が、赤いマークのラベルをリュックにつけて、
身体を折り曲げて、がっくり眠っている。
赤いラベルがポンと無防備に見えるのは障害の存在を知らせているのだろう。
その姿はどこか温かく、どこか無邪気で、私を安心させる。
男の子が、ううんと起きて目をあけたので、私が笑うと、
彼もにっこり。電車がどこにいるのかわからないらしく、きょろきょろする。
「どこだかわからないんですか?」
・・・だって疲れて眠っちゃっていたんだものね。
そうすると彼は、ぼくは障害があるのでと、ごそごそし、
僕のお父さんがこうやって行きなさいとこれを書いてくれたんです
と私に小さいノートの切れ端を見せる。
「このままで、僕、そこへいけるでしょうか?」

それは5,6行で書かれた、この少年によく似たきちんとした文字だった。
地下鉄新宿線の新宿3丁目で下車、
丸の内線に乗り換えて、そうすれば新宿御苑前に着く。
「新宿御苑に行きたいの?」
「そうなんです、いけるでしょうか?」
といっているうちに、電車は新宿3丁目の構内に入っていく。
あっ、新宿3丁目に着いたらしいわ、ここよ、降りなきゃ。
丸の内線よ。降りたら丸の内線をさがして乗る、
「新宿御苑はどの電車にのるんですかって、きいてね」というと、
彼はズック靴をはきなおし 、肩に赤いカードをつけたリュックをかけ、
ぶじプラットホームの人混みの中に立った。
ありがとうございます、といいながら。
私を見たから、手を振ると、にこりとして手をひらひら振っている、
賢いお父さんがいる家庭の17才ぐらい、それだけしか知らないけれど、
そう思うとうれしい気持ちになった。

・・・彼は、新宿御苑駅で降りて、それからどこへいくのだろうか。
考えたってしょうがないわよね、
彼のお父さんのように 、
信じて、手伝って、まかせるのが一番よいことなのだろう。

あんただって、と私も、自分のことをそう思う。
反対に行く電車にうっかり乗っちゃって、
それで、こんなふうなよい一日が、待っててくれたわけじゃない、
そういうことでOKでしょ。