2020年9月14日月曜日

世間のひと、という本

「世間のひと」は、浅草寺の境内で40年間も、これという人をつかまえて、
写真を撮り続けた、鬼海さんの作品集である。
幾つだろう。1945年生まれというから、75才かしら。
その、これという人たちの写真を400人分も、
私は半日ながめて、ショックだった。

1973年から2013年までの、これという人の半身像・・・。
世間のひと、とカメラマンはいうけれど、
多摩センターという鉄筋コンクリートの公団の街に住み、
大規模修繕で日々、今のうちだからと片づけまわしている自分が、
いま、世間のひと、と思うのはこういう人たちじゃない。

ちくま文庫の、このページの中から、
写真家のカメラを見つめる人々は、もし彼ら彼女らが、
京王線や小田急線の乗客だとしたら、異常奇態な印象の人間たちである。
こういう人を見なくなって、いったい何年がたったのだろう?
60年以上もまえ、こういう人を私はよく知っていた。

私は11才のころ、
こういう人の中にいた。
こういう人間たちの中にいて、それから父と継母の家にもどったのだ。
郊外電車の路線上にある、帰りたくなかった文化な家に。
・・・高校に行き大学に入り、結婚し離婚し、いま公団住宅にいるショック。