2020年9月4日金曜日

1家に1冊 おすすめ


岩波新書「作家的覚書」 高村薫
難しい本だろうか?
それがそうでもないというのが、自分なりの感想だった。

「難しい本」なんだろうな、という先入観は、
2014年から2016年までの時事評論で、高村薫だと思うそばから、
図書館にいる私にとりついた。
でも、読みやすい本だった。
岩波の「図書」という宣伝用小冊子(ただでしょ?)の連載だったので、
時評ひとつが、とても短い。2ページ読むとおわり。
それも、読みやすかった理由かもしれない。

たいていの人はだれでも時事評論なんか読みたくないと思うけど、
読まなくて政府にまかせっきりにすると、たとえばコロナ禍を皮切りに、
信じられないほどの悪政が、私たちを絶望させるわけで。
大人が、あるいは子どもでも、女でも男でも、
義務として知っておかなくちゃいけないことが、人間にはやっぱりある。
学校ならば「社会科」という科目。クラス運営という仕掛け。
これはいつか来る選挙権行使のための予備科目である。

本書の編集者がいうには、この本は、
「日本がルビコンを渡った決定的な時」の覚書、なるほどそういう本だと思う。
私は、読みやすさにつられて、おしまいまで読んだ。

高村さんは、文章の起承転結、そのぜんぶを書くひとである。
どんなに短い「短文」にも、起承転結。
律儀でまーじめ。
私はどうか、と比べては申し訳ないが、つい比べると、
私の場合、起と承 まで書いて、一転して村の噂話みたいにしてしまう。
読む人をなんだか、笑わせたくなるのだ。
これじゃ、たぶん一応騒ぐばっかり、誰の参考にもならないだろう。
高村さんは、ちがう。
高村さんは、わかりやすくて、親切な書き手だ。
彼女はどんな社会現象からも、逃げない、目を反らさない。
見事なほどの直球勝負で、ふらふらごまかすなんてことはしない個性である。

私は、「作家的覚書」は必読の書であると思う。
そう思うわけは、
苦手な社会科に取り組む義務が今こそわが国の大人ぜんぶにあると思うから。
読み手の期待に応えようとするこの作家の努力が、
おどろくほど真剣で、優しいからである。