2011年7月22日金曜日

おとなりさん

幼稚園のお隣が小学校で、校長先生がいい人だった。
前世は男?だった?のか?みたいな口調の、思いやりのある人だった。
会合の席上、よく透る声で、
「なるほどねえ、ええ、わたくしも実のところ善処すべきと、そう思ってはオルんですが」
このオルんですがのオルなんか、自分だったらまちがっても使わないんだけど、
なれてくると私は好き、会議のひそかな楽しみで待っちゃったぐらいのものだった。
笑うとカラッと心底おかしそうな顔で、そこがまた、相手をのびのびさせるのである。

校長と園長は似た商売。
悩んだりして夜中に目がさめて睡眠不足、と私が話すと、
うん、うんうん、そうでしょ、そうでしょ。
自分だっておなじですよ、となぐさめてくれる。
「歯を喰いしばったりしません?」
ときいてくれ、
「わたしなんか、喰いしばりすぎて、それでしまいに口があかなくなりましてね。
ねっ、おにぎりが入らないのねっ、口があかないんだから、もう。
ええと、そう、が、がく、顎関節症、それそれ、先生もなったの?!」
思わずふきだしたけど、なんたってサーヴィス満点なのだ。

疲労がよく見れば彼女をとりこんでいるらしいのに、それでも気合が入っている。
気力充実、俊敏な雰囲気、実力十分。ほんとにうらやましい。
たぶん、ひとつのことをまっすぐにやり続けた結果なんだろうな。
つめのアカを煎じてのめばいいのかしらと、憂鬱なばっかりのにわか園長の私に、
先生みたいな方こそ私はあこがれですよ、とポンと言う。
演劇やって、書くこともなさって、あれもこれもでしょ、それで園長先生でしょ。
そこいくと、わたしなんか、教師一筋というと聞こえはいいでしょうけど、
ほかのことはなーんにも知りませんし、できませんし。

どういうぐあいに育てたら、ああいう気持ちのよい女性が育つのだろう?
もうお会いするチャンスもないだろうと思うけれど、思い出の青空である。