2012年6月1日金曜日

バス停


ながいことバスのターミナルで、夕暮れを私はながめた
中空が暗くなっていくのを
何台も何台ものバスが轟音をたてて出発する
私の帰る場所には行かないバスだ
ふくらんでつぶれるクラッシュの音が耳にあたると
そのたび泥の風がターミナルを吹きぬける
悲しいことなどなにもないのに
心は茫然と
自分の知らぬ往事をふりかえり
またも戦時下にあるかのような
人々の往来を見つめる

私はながめる
風が女たちのスカートを帆のようにふくらませ
それが薄暗がりに美しくひるがえるさまを
ある老人はアゴにシミがあり
ある老人には白髪があり
ある人は背中をまるめて歩く
あの人はリュックサックをしょってゆっくり
別の人はリュックサックをしょって厳しい顔をして
たまに
幸福そうな少女を見つけると
ミルキーウェイのような子だと嬉しい

このところ風はいつも雨をはらんでいる
初夏とも思えぬ冷気が
ターミナルに滞留する私たちを凍らせる
やがて目当てのバスがきて
残りの乗客を運んでいくのだが
たしかに私も家へと帰っていくのだが
ハタハタはたと音のする風と別れて
ここからむこうへと
今はまだらくらくと移動して
セマイナガラモタノシイワガヤ
バスは、かるがる走っていくのだ
大気の重いマイクロシーベルトを沈黙のままかきわけて