2012年9月7日金曜日

熊本に移住したAさんへ


Aさんへ

お元気ですか?!
南阿蘇の緑の公園の灰色化した木のベンチ、
牡丹みたいなあかい色したTシャツ姿で、くっついて笑っている
可愛いふたりの女の子。
写真つき暑中お見舞いのハガキ、ありがとう。
「首都圏、関東からの移住家族とたくさん知り合いました」と書いてあって。
ああ、どうにか無事なんだと安心して、
この小さなふたりのために、放射能を避けて熊本に移住したその後の、
あなたの日々の明暗を、あらためてハガキを手に考えました。
さんざん悩み、調べ、ご両親と言い争いにもなり、苦しんで、万難を排して、
そういうあなたといっしょに、根こそぎ生活を動かし仕事場を変えた、
あなたの夫君のお人柄が、写真のむこう側に見えるような気もしたのです。

今年の5月、考えたとおり引っ越して。
九州地方は前代未聞の集中豪雨に見舞われ、
なれない土地でさらに酷暑の夏をむかえ、
引越しというのはたださえ疲れるものなのに、
利権国家日本は、原発再稼動を決め、瓦礫の拡散を方針にする。
せまい汚染列島のどこに逃げても、放射能は追いかけてくる。
自分たちの選択は正しかったのか、これはもしかしたらまちがったかもしれないと、
あなたはどんなに不安だったでしょうか。

なにか、フツウであれば考えもしない「大事」と正面衝突?したあと、
私たちは、なんども迷うのですよね。
よかったとも思うし、失敗だったのかなとも思うのです。
それで、どう考えても、なにが正しいのかきめられないのです。
少数意見は、どこまでいっても少数で、よって立つ地盤も常にぐらぐら。
よかったと思い失敗したと思い、たして、ひいて、
しょうがなくあなたのそばにとどまったボロボロな残りが、
「結論」ということなのでしょう。

Aさん
このごろは、空をながめると、入道雲ばかりが眼について、
それだけで地殻変動がどうのこうのと想像し、ガックリ疲れちゃうような私なので、
未来を予測して語るなんてことはできないけれど、
でも私はあなたに、こんなこともある、と言いたい気がするのです。
あなたたちが熊本に移住したとき、
あなたの勇気や、決断や、周囲との軋轢、バクハツしそうなまでの論理の堂々めぐり、
それからふたりの子どもたちの様子だとか、
東京に残るみんなとのあなたの話し方だとか、喧嘩とか、後悔とか。
私はみんな、好きだった。だって、賢そうで、人間らしくて。
欠点も、決断力もりょうほう立派に備わっているみたいだし?!
「行った先がダメなら、安全をさがしてまた移っていく人間になりたいです」
そう言って笑ってみせた態度だってね、あっぱれじゃないですか。

スウェーデンの世界的ベストセラー「ミレニアム」の作者スティーグ・ラーソンは、
友情は信頼と敬意に基づくものだと、たびたび主人公に語らせています。
信頼と敬意がなければ、友情は成立せず、それでは助け合うことはできないと。
信頼と敬意なんてもの、それはいったいどこから生まれるのかしら。

考えて決めたことを実行しようとする一連の行為を見て。

そう、私は思うのですが、どうでしょう。
友情はそうやって得られるものではないでしょうか。
あなたは一連の行為によって、私を友達にしたと思うのです。
友情とはなんだか馴じまない言いまわし、泡ぶくのよう、はかなく消えてしまう虹みたい。
でも私は、私の友情って、あなたの人格を保証している、と思うのです。
あなたは移住して多くを失い、失う行為によって、新しい多くを獲得した。
「首都圏、関東からの移住家族とたくさん知り合いになりました」
それが信頼と敬意に基づいた関係に、どうか進化していきますように。
立場がおなじであっても、友達じゃなければ助け合うことはできないよ、と
スティーグ・ラーソンならば言うでしょう。
ジャーナリストであったラーソンは、一生を社会運動につかい、雑誌EXPОを主催、
人種差別に反対し、極右を論じた著書を発行し、50年の一生は貧乏で、
だからこそ、友情についてはリアリストだったでしょう。
「君は僕を信頼しているのかな、どうなの?」
それはいつも、どこにいても、一連の行為をよく見ることで、決まるのでしょうね。

長くなりました。
ヘンな手紙で、、まったくもう、こまりました。
これ、もう三日もかけて、書こうとしてるけど、うまくゆきません。
手紙を書いていると、あなたのご両親のことを思うので、とても不思議です。
こんな娘さんを育てた方々に、敬意をささげたい気持ちでいっぱい。
くれぐれも、よろしくお伝えください。

元気でね。