2012年7月21日土曜日

志ん生の長女


志ん生の娘というと馬生と志ん朝のお姉ちゃんである。
「三人噺」という、なにか黄昏のようなカラーの、美しい本を読んだ。
聞き書きだから流れるような、話というよりはやっぱり「噺」の、そのおもしろいこと。
見たこともない詩のような本・・・。

美濃部美津子さんは落語の名人を三人も出した家族の娘だから、
軽妙洒脱が稼業の家にまるごとざんぶり浸かっていたわけで、
彼女の生活言語であることばは、えらびぬかれた落語の噺のそれなのである。
考えてみれば当然だけれど本当にすばらしい。
しかしそれよりもっと、この物語に私たちが感動させられるのは、
けなげで、欲がなくてまっすぐな人の気持ちのありようだ。
こころねがいい。献身が自己犠牲とカンケイがないのもすっきり美しい。
この家は男三人が有名なんだけど、美津子さんは母親のおかげで、
裏方であることを、それはそういうもんだと自然に受けとって自分も生きたのである。

どうしてなのかなあ。
古今亭志ん生の家の極端な貧乏は有名だけれど、なんかこう納得のいく、
こどもがそれをスンナリ引き受けちゃうぐらいな、第一級のおかし味というものがあって、
魅力的だったんでしょうよね、きっと、考えなくても。
結婚はしたけどやっぱり戻っちゃったぐらいの、ねえ。

文庫本になったから買って読んで、と友達にすすめたら、
もうもう読んじゃって、ドライアイがいたくて苦しいのに読んじゃった、と。