2011年9月13日火曜日

千坪を制す 


私の机は園庭に面したガラス戸の前にある。
そこから、遊ぶ子どもたちが見える。
・・・・千坪の庭のほんの一部、戸板一枚分の視界。
つばめやひばり、そしてひよこの子。

新学期になって、ひよこ組(三才児)にとても小さい女の子が入ってきた。
早産で生れた子ども。
健康に特別心配はないそうでも、あまりに小柄なので不安である。
なにかというと私の目はその女の子をさがしてしまう。
見れば終日無表情。笑わない。寒そう。つくづく小さい。
小さな手がぎゅっと担任をつかんでいる。
離そうとしたら泣いたのだろう。ほっぺたが涙だらけ。
ずーっとそんな調子なんだときいた。
まあ先生独占にはちがいないけど、無理もないでしょ。

とあるさんさんと春の陽ざしのふりそそぐ昼さがり、
あの小さい小さい女の子が、自分の横に来たでっかい(そう見えてしまう)坊やを
小さなこぶしでもって、ボカンボカンとなぐっているではないか!?
大きいとはいえ、なぐられてるほうだってまだ三才、入園一ヶ月である。
反撃がこわいなーと見ていると、彼は彼なり痛くも痒くも座ったきりで。
おおようにパンチされつつ、悠然とちょっかいしごと?を開始または再開。
小さい方はもうカンカンのかなきり声。
職員室できくと、あの親指ヒメちゃんには、たいした根性があるんだとか。

冬が完全に去って、夏も終わり、秋がくるころ、ひよこ組のこどもたちが
おちついたのがわかる。こども同士で遊ぶのだ。

あの子が視界をよこぎる。
ひとり、決然としてどこへいくのだろう?
仕事のある私は机の前に座ったまま考える。
手にバケツをつかんでたけど、バケツの中には砂が入ってるんだろうか?
それとも砂か泥をさがしにいったのか?
彼女が出かけた方角には、砂場とブランコと畑がある。
さてと。なが旅から、同じ姿がバケツといっしょに引き返してくる。
とっとっとっ。とっとっとっ。
あいかわらずの無表情、個性そのもののぶっちょうづら、あの一心不乱。
むこうでなにをしてきたの、あなたは?
園庭って、もしこの子になってみたら、どんなに広いところだろうかしらん。

砂漠かな。

かけめぐっている無数の園児をものともせず、ひとりで出かけようなんて。
なんと勇敢。
千坪を制す。
三才がそこをわがものとはやくも理解したのだ。
あなたの前途はきっと洋々ね。
そう思う。