2014年1月27日月曜日

ゲンかつぎ。


ライブハウスで私はピットちゃんのすぐ横にこしかけていた。
ふわりとした白い毛糸のチュニックがよく似合う人で、
さっきから眉をしかめて、目立たないように何度も手提げをかきまわしている。
おなじ病状?だと思って、ついきいてしまう。
「なにか落としたんですか?」
ええ、いいえ、と彼女。
「つまらない物なんです、わたし、あのうちょっと、お守りみたいなつもりでいたから」
同病あい哀れむ。私たちは遺失物を教えあった。
止めのついたリボンが彼女、ちいさなフランスの神様が私。

「なくしたものの代わりにはならないと思うけれど」
彼女に金色のクリップを渡す。気に入っていたし買ったばかりだし、いいかと思って。
すると自分の残念とはくらべものにならないからと、異国のお守りが手渡された。
銀の色したエキゾティックなペンダント・トップ。
「そんなのいりません。だってあなたがこまるでしょう、お守りがなくなって」
ピットちゃんは元気な笑顔で、
「いいんです。もう私は自分の幸運をこのお守りでは使ってしまいましたから」

それから、ライブの喧噪のなかで彼女はみょうに真剣な顔になった。
失くしたのはどんな神様なんですかときくのである。

「親指のツメぐらいの白い陶器、青い上着でバイオリンを弾いてるの。」
もういい絶対みつからないと思うから、と私は言った。
指で、こんなに小さいのよとサイズをつくれば、1センチ半ぐらいしかない。
地下のライブハウスは100人以上の人でごった返し、煙草のけむりで霞んでいる。
あっちも会場こっちも会場、どこをどう歩いたのかハッキリしない。
こころあたりのある場所はもうとっくに捜したあとだ。
どんなに胸がごろごろしても、私はあの小人とお別れなのだ。

・・・ところがである?!
1時間ぐらいあとで、ピットちゃんが私にフランスの神様を差し出したではないか!!
出入口の壁の下にありましたと、まじめな顔がとてもうれしそうだ。
お守りを返してあげたいのに、いいんですいいんです、と受け取らない。
左手に小さなペンダント・トップ、右手に親指小僧、
私のお守りはこの日ふたつにふえたのだった。