2013年1月13日日曜日

早朝のロッテルダム 1/3


 
夜明けは夜のように真っ暗だ。
時差のせいなのか、4時半に目がさめてしまい眠れない。
貨物を運ぶ自動車が一台、広い通りを走って行く。
時々、乗用車が家へ帰るのだか会社に往くのだか、走りすぎ、
六時ともなると、トラムがなめらかな音をひびかせて、十字路の角をまがり、
私がいるビルの下を右から左へ、左から右へと通りすぎて行く。

そうなっても私は眠れない。
時差がコタえているのかもしれないし、放射能さわぎの中に故国を残してきた緊張から
抜け出せないでいるのかもしれない。

星のようにひとつの明かりをまたたかせて走っていく自転車。
こんな時間・・・、早朝の仕事に出発する人だろうか。
二車輌のトラムが向こうからやってきて、左折。
目をこらすと、座席に腰掛けている冬外套のアラブ人や、中国人が見える。
ロッテルダムはオランダで唯一、第二次世界大戦で全焼した街だとか。
戦後の建物が多く、移民の多い街である。
信号が赤に変る。乗用車がおとなしく信号待ちをする。

夜の明けない外国の街を眺めながら、私は自分の傷ついた世紀の果てを見る。
そして行く手について、あてもなく考える。
オランダはこぬか雨のなかにあり、
朝は三筋のオレンジ色の線が灰色の空にうかび、いつのまにやらまったくの灰色に落ち着く。
同じ灰色でも、気がつけばあたりはもう暗くはないのである。

外国の平安が私をくるみ、この世の行く先を一時隠してしまう。

あんまりちがう人がいるので、黒人、白人、中国人、トルコ人、ばかデカかったり、
おどろくほど太っていたり、背の丈だってちぐはぐいろいろ、
日本人である自分がどうのと思うヒマもない。
ゆえにロッテルダムが私は好きである。