2013年1月14日月曜日

オランダ 1/4 髪をカットする


あんたねえ、とおねえちゃんが弟にブイブイ文句をいっている。
あのねえ、ヨーロッパに来たのよ。きちんとしなさいよー。
(うるせいよ、いいんだよ、どうでも)
いいんだよ、じゃないでしょー。よくないよお。
見たでしょ、リックだってこざっぱりしてるでしょ、清潔にしてるでしょ。
べつにお洒落しなくてもいいけど、きちんとしなさいよ。これはないよ。
ズボンなんか、ちぎれちゃってて。いったいなんなの。
(・・・ファッションです
あんたをスキポール空港で見たとき、おねえちゃん、目を疑っちゃったわよ?
椅子にぐっちゃり沈んでるし、
この子、不幸なんじゃないのって、きいてる? きいてるの、返事しなさいよお。
これはないよー、みとめられない、ねー、おかあさん、ねーっ?
(うるせい、うるせい、ああいやだ、うるせい)

弟は閉口して、にやにやし、身体をくねくね捩り、
なんとかしつっこい姉から逃れようとしているが、一方では負けてやらないと
遥がくらす遠い国に来て、これでは悪いとも思うらしい。
いささかこぎたない半端な頭だと思ってもいるらしい。
日曜日にはリックのご両親の家を訪問するのだ。
デパートでズボンを買おう、上に着るモノも、髪を切ってから!
遥の友人がここから歩いて10分ぐらいのところに住んでいて、
金城さんという沖縄の人だけれど、自宅でヘヤーサロンをしているのだという。
もう予約してあるというのでホッとした。
遥はホントに頼もしい。

6才ちがいのこの二人は、小さいとき、いつも喧嘩してなぐりあって片方が泣いていた。
「離れてなさいよ、そんなに喧嘩するんなら、くっつかなければいいじゃないっ!」
私があきれて叱っても、長椅子にピッタリくっついて座って毎日喧嘩する。
なんだかんだと一緒にゲラゲラ笑って、あげく小さい弟が泣く破目になるのだ。
あいつは悪魔だと本気で思ってた、と弟がいつか言ってたっけ。ははは。

金城さんはドイツ人の彼とふたり、ちょっと日本調に飾った部屋で暮らしている。
リックはシャイで静かなオランダ人だけれど、金城さんの彼は社交的な人で、
散髪を待つあいだ、遥と私に彼の新しく開発した製品の話をしてくれたりする。
英語なんだけど、まあわかる・・・一応。話せないけど。
その新しい製品とは、なんの害もなく果物や野菜を一ヶ月新鮮なまま保つ溶液である。
飛行機では果物が出されるけど、そういうところでは便利かもしれないと思った。
売るとなると、それはやはりなかなか大変だそうで。
どこの国でも、人間っていろいろなことを工夫して、働いて生きてゆくもんなんだなと、
共感のようなものを持ててよかった。

美人の沖縄人とハンサムなドイツ人が、整然とのびのびとロッテルダムのアパートで
ふつうに暮らしている。うらやましい。いい人生だなあと思う。

と思う間に、おかげさまで弟は見違えるようにスッキリしゃんとして、再生紙のよう。
よかったじゃないのほんとうに。