2011年10月27日木曜日

職員室の幸せ  2010


ある日のことです。
男の子がふたり、職員室の薬戸棚の前に連れてこられて、
それぞれ片手で頭をおさえて、泣きながら立っています。五才です。
ふたりを連れて来たのはフリーの先生、この人とっても忙しい。
「園長先生、おねがいしていいですか?」
彼女ははやくも両手に紺色木綿の湿布用ハチマキを用意し、
「痛かった、痛かった、冷やそうね」
と泣いてるふたりに言い、私にはこう説明、
「園庭で激突しちゃったんです、ケンカじゃなくて。」
ハチマキを渡すや、仕事にむかってふっ飛んで行ってしまいました。
さて、
残されたふたりがおなじ模様の保冷剤入りのハチマキをしますと、
可愛いふたりは、ぜんぜん似てないのにソックリの双子みたい。
泣きべそをおなじようにかき、言われるままに小さな椅子にこし掛け、
泥がついた片手で、それぞれゲキトツのあとを押さえているのです、シンメトリックに。
私が思わずアハハと笑っちゃったら、ふたりともおかしいらしく泣き笑い。
大丈夫かしら、すこし休んだほうがいいかしら。
「本を読んであげようか?」
べつべつの一風変わった坊やたちなんだけど、双子みたいにうなづくので、
私はヘンテコリンな本だよと言って、
レイン・スミスの「めがねなんか、かけないよ」を読みました。
この本が好きなんですね、私は。
一人がクスクス笑うと、もう一人も笑って、ふたりはゲラゲラ笑ってきいていて、
そのうち私たち三人は世間話、つまりこのあいだの歯科検診の話になりました。
ふたりともムシ歯があるんだとカミングアウト。
歯医者さんに行ったときの話になって、一人は「泣かなかった」と言ったけど、
もう一人は「ぼくは泣いた」と言って、思い出し笑い。
泣いたというのが自分でもおかしいのよねえー。
それからしばらくふたりにしておいたら、
ゲキトツしたふたりは、ごめんね、さっき、なんて言いあっていて、
それから、もう大丈夫になって、園庭にもどりました。

この話を園内の通信に載せた時、投書をもらいました。
こういうのでした。
『 痛みがおさまるまでの時間。
やわらかくて、楽しくて、ゲキトツもたまにはいいか、みたいな。
これが小学校だと、「気をつけろ」とか「保健室の先生が大変じゃないか」とかって
怒られて、子ども同士も、「お前がぶつかってきたんじゃないか!」となりそうです 』

この投書を読んで、、自分の子どもには、私もまたガミガミの一点張りだった、
と思い出してしまいました。



「めがねなんか かけないよ」 
レイン・スミス作  青山 南訳  ほるぷ出版