2016年2月4日木曜日

訪問異聞、いぬねこ


デボラさんの家に行く。

想像していた通りの借家で、親日家のアメリカ人にふさわしい日本家屋が素敵である。
家具調度の重厚さ趣味のよさはもちろんだけど、犬と猫が物語り的。
犬は二匹いて、ふたり?とも病気である。一匹は玄関脇の部屋のベッドから出られないし、
クスリが体中に入ってるもう一匹は居間にオシッコしてしまい、
哀愁をおびた眼で、デボラさんが始末したあとを眺めて、憂鬱がはれないという表情だ。
彼それとも彼女?は、こわばった小さな体をそっと運んできて私のそばに横たわり、
椅子からすべり降りて床に座った私の片足に頭をのせて寝てしまった。
「うちの犬と猫、人がすきよ、人なつこーいよ」とデボラさんがいう。
そう言ってるところに、騒ぎをききつけたのだろう、
大きな入江たか子みたいな古典的な猫が部屋にするするするっと入ってきて、
私の膝に重い手を掛け、くんくんとしきりに私のにおいを嗅ぐのである、?!
「この猫、自分のこと犬と思ってるから。だからワタシ犬だからと思ってにおい嗅ぐよ 」
デボラさんが私のためにテーブルを整えながら、
たしか「イスズーッ」とか英語でどなって、あれやっちゃだめ、これやっちゃだめ
と英語で注意すると、なんとも毛並みのよい堂々たるイスズは、
あっちの方のソファの背もたれに飛びのり、美貌切れ長の眼で不満顔だ。
「仔猫のとき、オカアサンが死んだから、これは犬が育てましたから、
じぶんは犬だと思ってますから、犬とおなじことするんですよ。わかりますかぁ?」
デボラさんはよく、話の終わりに「わかりますかぁ」をつける。
難解な話じゃなくて、わかりきった話に「わかりますかあ」というのだ。

はい、わかります。
私はごきげんだ。
炭酸水を飲んで、皮つき林檎を食べる。
チーズとなにかを食べて、ああこれはチーズにあうと食べて、話、話。はなすのが楽しい。
出てくる食べ物が気に入る。
コーヒーが、大ぶりのまこと手のひらによく馴染む昔の日本陶器に入れて出される。
犬と猫になつかれる歓迎とは、なんとも豪華版じゃないですかね、ね。
わっかりますぅ?!