2019年3月13日水曜日

映画を紹介する


映画を紹介しにいった。
じょうずに話せず、用意したメモ書きを読まずじまい。
残念だった。
メモは、中公選書「日本映画 隠れた名作」という良書のあとがきから。
書いた人は日本文化学科教授の筒井さんである。

「わたしがこのところ好きな映画に(一々作品名は挙げないが)、親しい人との
信頼関係を裏切らない人間を描いた情緒豊かな作品群がある。偽善やはったりなしに
これを描くことは難しく、せちがらい最近ではめっきり少なくなってしまった作品群
だ。作劇法に本当の力と誠実性がいるジャンルだと言えよう。
昭和三〇年代の映画がいいのは、一つにはそうした思いがこめられた映画が多く、
また見事につくられているからだということが近年悟られ出したのである。」

映画「あの日のオルガン」を号泣して観たという方が多い。
うれしいことであるが、ホントの「号泣」だと、ほかのひとの邪魔になる。
大勢の観客が号泣すれば、映画の音響は残念ながらきこえなくなってしまう。
実際は、涙をこらえきれず、気持ちよく泣けた みたなことだろうか。

 「あの日のオルガン」を劇場でみてくださった多くの方々が、
涙を禁じ得ないのはなぜかと、「ごうきゅう」などと言わずに、
静かな日本語をつかって、考えたいものである。

いま日本人の魂の底のここには、抹殺されかけた希望があるのかもしれない。
親しい人との信頼関係を裏切らないヒトが好き、ということだ。
そういうヒトは当然、意地悪ではなく、情緒がゆたかであり、
偽善やはったりなしに、まっすぐに、素直に、生活するのだ。

作劇における「本当の力」とはそういう「誠実性」にあると、
筒井さんのあとがきは、昔ながらの落ち着いた日本語で分析して、素敵である。
なつかしい。