2019年3月7日木曜日

愉快な書評


書評を朝日新聞出版の編集者の上坊さんに送ってもらって、
編集作業はとっくに終わっているのにと、親切がうれしい。

ふわりと届いた その書評が気にいっちゃって、陽気になった。
やっとロードショーが始まった映画「あの日のオルガン」の原作。
書評の小見出しはこうである。

園児たちの命を 
守り抜いた 
普通の20代の 
保育士たちの 
不思議な戦中記録

書き出しはこう。

「なんだか不思議な本である。」

読むとおかしい。
まず「出版社による説明文の要約」を紹介したあと、書き手はこういう。
山田裕宇、30代かな40代かな、その人の文章がはじまるんだけど。
  
  いかがだろう。ここまででちょっと読んでみようかな、と思ったあなたは書店へ
  GO。まだムムムなあなたのために、この書評は続く。

書店へGOってと私はあきれたが、今どきはこれが近代的マンガ型、抵抗なく
読めちゃうのかしらと、次の行へ進んだら、もっとおかしい。
  
  戦時中を描くノンフィクションではあるが、誰もが知る名著「火垂るの墓」
  がごとく心がギュッとなり、ついで胃袋もギャッとなって、普段は旺盛な食欲
  もさすがに肩を落とし、図らずもダイエットに成功。なんていう副作用は本書
  にはない。私たちが想像もできないほど過酷な疎開保育の実情をなんともさわ
  やかに描き切る、不思議な戦中記録なのだ。

私はどうしてかこの「ギュッとなり」「ついでギャッとなり」のくだり?が 好きで、
野坂先生すみませんと思いつつ、何度も、読むたび笑うのだが、この山田さんの
書きっぷりのなかで、感心させられたについては、別のこともあった。
鮮やかにふざけながらこの書評人は、私の文章の「戦中記録」の「不思議」を、
以下のようにスカッと説明する。
   
   経歴を見てみると、著述家になる前は劇団で俳優を7年間していたという。
   劇団生活で身についた自分ではない誰かになり切る技術が、当事者視点の
   一人語り形式を多く取り入れた、ノンフィクションとして一風変わった印象を
   を受ける本書の秘密かもしれない。

劇団で7年、その前の演劇大学で2年、あの俳優修業の年月を、私は挫折でくくるしか
ないと考えていたが、文章の「技術」をはぐくんでいたのだと、
書評が教えてくれたのである。
最後に、
    
   勇気が湧いてくる。

と彼または彼女?は書いてくれているが、ページのくくりがまたヘンで、字数の
都合なんだろうか、おわりはこうである。
   
   何はともあれ、戦争ダメ、ゼッタイ。

自由な書体というべきか。
なかなか「保育通信」を読むに至らないだろう保育士さんを相手の苦戦が、
とてもステキである。
ホントにありがとう、山田裕宇さん。