2020年5月7日木曜日

ひっかかる読書


急に、おかしいぞ、今日は6日じゃなくて7日だと気がついた。
そうだとすると歯医者さんに行かなくちゃならない。あと1時間ちょっとで。
なんとか、間に合ったのはよかったんだけど、診察券も保険証も忘れ、
電車の中で読む本もない。
上着を座席に置き忘れたら、乗り換えの時、トントンと肩を叩いて
教えてくれた人がいる。マスクなしの優しそうな人だった。

治療はながくかかり、先生はすごく疲れているみたい。
途中でのどがカラカラになって、咳がでそうになった時、それがよく判った。
先生はサッと私をよけたし、咳はしないでと看護婦さんに言われたし、
そんなことを言われても咳をとめられないし。
やっと、治療を中断してもらって、水をすこし飲んだ。
私はコロナじゃないはずだが、誰にも、自分にだってよくわからない。
そういうことが歯医者さんにはすごいストレスにちがいないと、よく判った。
一般的に、コロナの発熱は自宅で始まり、自宅で感染を自覚するはずと、
どうして自分の都合に合わせて、粗雑な予想をしたのかと思った。

帰宅の途中、いままで休業していた本やさんが開店していた。
そこで「ケーキを切れない非行少年たち」という評判の本を買う。
なんだか、受験用のワークブックを読むような。
語り口がどうにもこうにも、釈然としない。

このごろ、「ピカソの美術館めぐり」という案内書を、毎日ぱらぱらと
読むんだけれど、誰が書いたのかしらないが、その案内の文章の的確さが
本当にすばらしい。人間と人類史についての考察がどれだけ深いのかと、
びっくりするような文章・・・。
新潮社が出したトンボの本のなかの一冊なんだけど。
気がつけば、それは堀田善衛さんの文章だった。

堀田さんの文章は、ピカソという天才について語っている。
「ケーキの切れない非行少年」の著者は非行少年について語っている。
天才も、非行少年も、理解しがたい存在だからこそ、案内の本ができるのだろう。
私は幼稚園児の教育にいっときかかわっていたが、
言語が未発達な幼児だって、小さいなりに、理解しがたい存在なのである。
人間に生まれた人の運命を侮ってはいけない。
存在するものは、だれだって、神秘的で理解しがたい。
書き手の全存在をかけても、つねに適確な説明が難しい。

非行少年の著者の紹介文の短文のひとつは
「1日5分で日本を変える方法 」だ。毎日5分のワークでよいと。
理解という行為は、もともと時間を要求するものなのに。