2020年5月9日土曜日

メグちゃん⑴⑵⑶ その⑵


メグちゃんがどんな父母会の会長さんだったのか、全然、思い出せない。
園長という仕事にビックリしちゃって、それどころではなかった。

次の日、教務主任から私が言われたのは、園庭の向こうにある門のところで、
一番小さいひよこ組の子どもたちの番人を、ということだった。
「なんの目的で番をするの?」ときくと、迷子にならないようにですと言う。
自分がやればいいじゃないの。

私は人間がデキてないから命令がましい彼女の態度にカッとなったが、
やってみることにした。 そして、一か月をめどにと言われたが、
ずーっとそれを続けることになる。
毎朝、門の外に立って親たちと子どもたちを待っているって、
物語をつくる、みたいな体験だったからだ。

そこは面白い場所で、左右が上がり坂と下り坂。
いろんな人たちが通る。秋は樹木が色彩を変えるし、冬は雪が降るし。
「おーいっ?」
私が手を振ってさけぶと、子どもがピョーンと飛び上がって駆けてくる!
母親たちがにこにこする。短い会話ができる。それがとても嬉しくって、
気がつけば一日の中で一番楽しい時間なのである。
よその母子や散歩のお年寄りや、ここを通る人みんなと話をしよう、と決めた。
ある朝は、ぜんぜん返事をしてくれなかった老紳士が、
「花が咲きましたなあ、みごとですな」
と言ったし、ほかの保育園に行く子が「おはよーっ」と叫んでくれたりしたし。
園庭に一歩入れば難問の山なので、
わかったわよ、とここでシンプルにがんばったのである。

メグちゃんとは、別の入り口から幼稚園に来るらしく、なかなか会えなかった。
私は恩にきているから、いつも彼女の姿を探した。
なにしろ父母の役員会を引き受けてくれた人である。
親しみをこめた声でいつも笑顔。親切だと思ってるから会うとホッとする。
たまに、例えば「新しい園長を歓迎する会」みたいな小集会があって。
彼女が副会長といっしょに、その会をセッティングしたのだろう。
歓迎されるつもりでのんびり、嬉しくて出席したら、
その会は、私に対する過酷な猛口撃に終始した。
そういう人が1人いたので、パプリカと赤唐辛子と黒胡椒 を、
まとめて一度にぶっ掛けられたような具合だった。
メグちゃんはというと、
なんというか、透明人間みたいになって、
だいたい、どこらへんに座っているのかも、よくわからない。
それに彼女がどういう人かも私はほんとうのところまだ知らないわけで。
またしても私は、わかったわよと。
「うーんと・・・」
ニッコリして、私は考えながら言った。
「・・・すごいな、」