2020年5月8日金曜日

メグちゃん⑴⑵⑶ その⑴


メグちゃんは、私にはありがたい人である。
こまると、やってきていつも助けてくれる。親切なのだ。
たとえば、パソコンでブログをひらきたいけど、お手上げだという時。
忙しい人なのに、はらはらするほど長い時間をかけて、
自分も分からなくなると、夫君に電話して、なんとか解決してしまう。

一番有り難い思い出は、私が幼稚園の園長になった直後のものである。
父母会の会長になってくれたのだ。
毎年のことだそうで、いつまで待っても会長が決まらない。
催促してくださいと教務主任にいわれて、
役員を引き受けたママたちが集まっている部屋に行くと、ションボリみんなが、
お弁当をつっついている。下を向いている。
私は65才になっていたから、みんながすごく若く見えた。
「なんで会長さんがきまらないの?」ときくと、
だってえ、と比較的勇気のある人が小さい声で、「責任がぁ・・」という。
私は、責任っていうけど、私と比べてごらんなさいよ、と言った。
朗読を教えていたので、そこに知り合いが何人かいたのだ。
「私なんか、急に園長になったのよ。園長より会長のほうがマシじゃないの」
だってえ、とママたちは小声になってまたしょんぼり。
「ここの幼稚園は理屈がむずかしいから」
「理屈かあ。幼児教育とか発達とか、そうよねー。」
でも、それに共感したから、みんなはここに子どもを入れたんでしょ。
なんて言ったらもっと怖がらせちゃうだろう。
私は若い顔にむかって言ってみた。
「だけど、とりあえず役員会に出席する幼稚園側の代表は私なのよ。
園長って職員代表にして父母会の役員なんでしょ。
理屈はとりあえず私が引き受けるから。
みんなの意見は、私が職員会議で先生たちにちゃんと伝えるし。
それなら怖くないでしょ。」
冗談のつもり、本音はんぶん、
「どっちかっていうと、怖いのはみんなより私のほうよ」
みたところ、みんなはもっと怖くなったみたい。
無理もない、新米の園長がなんと言おうが、いやだー、としか思わないトシだ。
子どもの親になって5年ぐらい。みんなだってまだ女の子みたいなのだ。

その時、
「今日うちを出る時、ぜったい会長なんかになるなよと主人に釘をさされて、
大丈夫よと言ってきたんですけど 」
にこにこ、あかくなった困り顔で発言したのがメグちゃんだった。
よく知らない、たぶんはじめて会う人である。
「だめだ君は絶対引き受けちゃうと主人に言われて、朝、幼稚園に来たんですけど」
けっきょくのところ 、
見ていられなくて、めぐちゃんは会長になってくれた。
会長がきまるとほーっと空気がゆるんで、父母会の人事は以後すらすらと決まった。

私は、園長としての最初の仕事を乗り越えたのである。
ほんとうにうれしかった。
とりあえずの難題を、この日は、涼しい顔で?のりこえたのである。
メグちゃんのおかげだった。