2020年6月18日木曜日

スクラップ・ブック


新聞の切り抜きを始めた。スクラップ・ブック(切り抜き帳)にはこれがいいと、
息子が大きいノートを買ってくれた。
紙屑の山みたいに、新聞記事のきれっぱしがとっ散らかる部屋で暮らしていたけど、
これでなんとか、整理ができる。
ような気がする。
うちの雑多な掲示板にも、心残りの記事の破片が、画鋲で止めてあって、
読むとそれは、たぶん10年以上も前の私の気がかりだったのに。
切り抜いたって、それだけじゃダメなのだ。

「措置入院もっと知って」
パート 斉藤由美子さん 48才の投書。

 措置入院をしたことのある政治家はいるのだろうか。
もしいたとしたら、措置入院後の生活を永久に監視するような改正法案を
出したりはしないだろう。
 私は甲状腺の手術時に、取らなくてもよい副甲状腺を切除されたのが原因で、
過去に何回か精神科に入院した。そのうち一回は精神保健福祉法に基づく強制
入院の「措置入院」だった。家族にとっては思い出したくない出来事で、私に
とっては記憶がほとんどあやふやな事柄になっている。
 ただ今でもはっきり覚えているのが、救急外来で医者と話をした後に打たれた
注射で記憶が無くなったことだ。目を覚ますと、真っ白い無機質な壁に囲まれた
部屋のベッドに寝かされていた。驚いたことに、両足首、両手首、お腹は高速帯
といわれる白いバンドで固定され、磔(はりつけ)獄門にされているような格好
だった。「悪いことをしていないのに、なんで縛られているのだろう」という疑
問と情けなさで涙が溢れ出たのを覚えている。
 その後、「 カクリ」と呼ばれる何もない個室に閉じ込められた。措置入院した
病院は、トイレと洗面台が付いていたが、自由に使えるわけではない。 
食事とトイレ以外は常に拘束帯に縛られたままだ。状態がよくなるにつれて拘束帯
の場所も時間もなくなっていき、大部屋へ移される。私の場合、お腹の拘束帯は
退院するまで就寝時に付けられたままだった。
 措置入院患者や精神疾患を患っている患者全員が、殺人を犯すような危険人物に
なり得るという偏見を持つのはやめてもらいたい。わたしのように病気が原因で
精神に異常をきたす場合もあるのだから。


スウェーデンの世界的ベストセラーに、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』
があるが、斉藤由美子さんの投書は、本書の主人公、リスベット・サランデルの受難
そのままである。
小説に描かれた、精神科医の悪だくみに満ちたやり口そのままの措置・・・。
いま現在の。おそらく法律で守られている日本精神医学界の。

私の家は、精神病の家系で、
子どもを育てる時、私は用心深くなった。
さいわい無事に子どもたちは成人したが、まったく無関係な話題だと考えたことは
一度もない。それなのにこういう悲痛な「投書」でもわすれてしまう。
いつか考えようと思いながらハサミで切り抜いたはずなのに。