2011年11月17日木曜日

外人その2

「おかあさん、わるいけどナイフとフォークとスプーンをかしてね」
あとで返すから、と遥がいう。
「日本のレストランって、箸ばっかりなのね。リックは練習してきたんだけど、
やっぱりムリみたい」
そうかなーと思いながら、持ち歩き用にワンセットもたせて、
「どんなとこに行ったの、レストランって?」
そうしたら牛丼屋だって。ナイフとフォークがあるわけないじゃないの。
うちでも、ひき肉ハスのはさみ揚げみたいなものをつくって、
うっかりと中皿と生姜醤油用に小皿しか用意しなかったら、
リックさんはナイフとフォークをせまい中皿の上で苦労してあやつっている。
「みないでくださいねって言ってる」
とおかしがって遥が。
血も涙もないやつで、すぐヨコの食器戸棚にお皿ぐらいあるのに、
そのまんま、メンドウはみないのだ。

リックは正確なところ身長193センチ、うっかりすると100キロを越えてしまう
のだそうだ。日本的サイズの室内を警戒して、椅子から立ち上がるとき、もう
首をすくめて、ねこ背になっている。そうしてみると、おなじタイプでも、リックの
両親の家はオランダサイズで、我が家よりタテが大きかったにちがいない。
物静かで、はずかしがりやで、とても礼儀ただしい。
見事な体格だから目が楽しい、いても気にならない。

食事中、遥がリックと私をふたりきりにする。
黙っているのもなんだかなので、内気なリックさんはタイヘンである。
私はエイゴがダメのダメだし、内気じゃなくても短気だから、しまいに、、
わたし日本語、リックオランダ語で、それぞれが自国語で話したらどうでしょう、
そっちのほうがスッキリわかるかも、なーんて非科学的なことを考えはじめる。
やっと戻ってきたから遥にそう言ったら、
「いや、ちゃんと英語で話をしてたよって、リックが」

やさしい人で、これなら娘は安心である。