2011年11月18日金曜日

高田 渡的

タカダワタル的ゼロ、というタイトルのDVDがある。
企画は東京乾電池。俳優・柄本 明が、高田 渡(故)という老いたる歌手のファンで、
劇団を総動員、高田 渡のライブを主催もしたし、ドキュメント撮影もした。
楽しい。泉谷しげるも参加共演しているがダイナミックな名演奏。

高田さんはシンガーソングライターで、若いときの逆説揶揄ソング「自衛隊に入ろう」が
大ヒット、放送禁止になったりして有名になった。一生を通じいろいろな歌をつくったが、
マリー・ローランサンや山之口 獏の詩に曲をつけて、つまり他人の詩に曲をつけて
歌いもした。

私の家で朗読の稽古をして遊ぶ人のなかに、山之口 獏の詩をすごく上手に語る、
佐賀育ちの武蔵野幼稚園のお母さんがいるが、今となっては、
山之口 獏の詩は、タカダワタル同様に、知る人ぞ知る、というようなものなのである。

このDVDでは、獏さんの「鮪と鰯」を高田さんは歌っている。マグロとイワシである。

    鮪と鰯      山之口 獏       

鮪(まぐろ)の刺身を食いたくなったと
人間みたいなことを女房が言った        
言われてみるとついぼくも人間めいて
鮪の刺身を夢みかけるのだが
死んでもよければ勝手に食えと
ぼくは腹立ちまぎれに言ったのだ
女房はぷいと横むいてしまったのだが
亭主も女房も互に鮪なのだ
地球の上はみんな鮪なのだ
鮪は原爆を憎み
水爆にはまた脅(おびやか)かされて
腹立ちまぎれに現代を生きているのだ
ある日ぼくは食膳をのぞいて
ビキニの灰をかぶっていると言った
女房は箸を逆さに持ちかえると
焦げた鰯(いわし)のその頭をこづいて     
火鉢の灰だとつぶやいたのだ

(1954年3月太平洋ビキニ環礁で
第五福竜丸が水爆実験により被爆)



人は、さまざまな繋がりのなかで暮らすものだ。
その繋がりが、まとまりをもって浮かび上がるのが、今現在である。

広島、長崎への、アメリカによる原爆投下の被害者は、三多摩にも住んでいる。
私のご近所さんに、
たび重なる米ソ核実験の影響下、仕事さきで(日本)内部被爆した方がいらっしゃる。
1958年以来、現在にいたるまでの、闘病。くらし。考え方。
その方の経験こそ、現在私たちが、教えてほしい、切実に知りたいことだと思う。

もうすぐ80歳になるというこの方の、
明るくて真っ正直、自分勝手なところのない人柄が、私はなんて好きだろう。
わが団地の植栽委員をずっと引き受け、年中作業着すがたでいる人で、
おはようございます、と会えば私は言い、
いつもお世話になってありがとうございます、と言う。
近所でいちばんご迷惑をかけ、お世話になっているのが自分かなーと。
私は、いまその方とわが居住区の、高齢化対策ボランティア相談会で同席。
高齢化ゆえの特権。お人柄と一体化した東北なまりがじつに気持ちよく、
ごいっしょできて光栄である。