2020年7月15日水曜日

それはともかく


それはともかく、
昨今の私は、童話の断片で、絶望をしのいでいる。
トラヴァースは子どもの時からお気に入りの作家だが、
なんという作品だったか、短い短編。

「星と石、鳥と人では陛下、どこがちがいましょうか?」
「どこもちがいはせん、教授どの。石は輝きなき星で、人は翼なき鳥ではないか」

王様はこんな唄を教授に歌ってきかせた。
     おお、勉強するなら
     とことんまでもやりましょう
     だけどそれではいそがしくって
     よく考えるひまがない
それとも教授殿、おおかたこのほうが気に入ろう。
     世界をぐるりとまわるのは
     わたしはあまりしたくない
     だってそしたらただまっすぐに
     家にもどってくるばかり

大教授は手をたたきました。
「もひとつあるが」と王様が言いました。「聞いてみたいと思うならば」
「なにとぞお歌い下さい、陛下!」
すると王様は、道化のほうへ首をかしげて、いじわるい笑いをうかべて
歌いました。
     大教授はみんな
     ずっと小さい子どもの時に
     水におぼれて
     死ぬがよい!
歌がおわると大教授は大声で笑って、王様の足もとにひれふしました。
「おお、王様よ」と言いました。
「永遠にましませ! わたくしめがお役に立つどころではございませぬ!」

 前川喜平さんは、現代教育行政研究会の代表であり、高級官僚だった人だが、
子どものとき、メアリーポピンズなんか、読んでたかも。
講演をきいたり、コラムを読んだりすると、ちょっとそんな感じ。
子ども時代にただ好きだったにすぎない詩句や童話は、
根強い教育論にすがたをかえ、
わけなく時空をこえて、彼方から読み手の心に飛んでくる。
そういうのを教養というんじゃなかろうか。
たとえ東大を出て、官庁に就職し、ヤクザな出世の階段をのぼってもね。