2012年8月19日日曜日

真夏のセミ


玄関から出て、階段にこしかける。
セミの鳴き声が、わーん、とせまい空をまるく囲んでいる。
耳にじんじん。だれもいない。
太陽のおとはきこえない。
セミばかり。
階段にこしかけるなんてはじめて。
ここに引っ越して十年以上にもなるのに。
風は滞留、空気は熱でゆらゆら。
家のむこうは藤棚をしつらえた中庭で、
びっしり葉をつけたアキニレの木が、三本ばかり、たっている。
陽がのぼる朝は、西にむかって影が三つ、小川のようにできるけれど、
いま、アキニレは、油絵のなかの木のよう、
ただくっきりと、こい緑にふくらんで、むんむんとあつぼったいのである。
一分間が一分間ずつ過ぎる・・・。何分間も。
セミがたくさん。
あっちへ、こっちへ、
思いだしたように、あっちへ、こっちへと、空間を移動する。
三本のアキニレのあつぼったい緑から緑へと。
ほら、また、飛んだ。
飛んでは、とまって、飛んでは、とまるのだ。

うすい空色のそらに、わーん、わーんとセミの音響。
かれらの期待は一生けっして裏切られない。
豊かであつくて、みどりで、緑で、緑で、ひたすらな満足の、
このながい七日分!